2018/11/14

めんどくさくなくて気楽な、新時代のゼルダ ― 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』


ようやくSwitchを買ったので『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド(BotW)』をやった。
世間の評判通り、とても優れたゲームだと思った。ゲームをやる人であれば、誰がプレイしてもまず間違いなく楽しめるだろう。新たな時代のスタンダードというべき名作だ。

BotWの3つの特徴 

まず本作が従来の『ゼルダ』シリーズと異なる特徴は3つある。

1つ目はいわゆる「オープンワールド」(公式には「オープンエアー」と表現されているが、呼び方は好きな方で良い)。
ハイラル全土の広大なマップが、(ミニダンジョンの祠などを除き)ほぼシームレスで繋がり、かつチュートリアル終了(パラセール入手)後からはマップ全域のどこにでも行くことができる。いきなりラストダンジョンに突入することだって可能だ。
2つ目は「ノンリニアなゲーム進行」。
これまでのようにゲーム進行は一本道ではなく、自由な順番で世界を回り攻略することができる。
具体的には、序盤が終わると「4体の神獣を起動させる」というのが(ひとまずの)ゲームの目的として提示されるが、4体をどの順番で攻略するかはプレイヤーの自由。さらに神獣を一切無視してそのままラスボスに突撃しても、誰からも止められることがない。

3つめは「自由度の高い謎解き」。
本作では同じギミックでも攻略法のパターンが多く、工夫次第で色々な方法で突破することができるようになっている。

めんどくさくないゼルダ

以上の3つの特徴により、BotWが従来の『ゼルダ』からどう変わったかというと、まず「めんどくさくなくなった」。

自分はゲームに関して結構飽き性・めんどくさがりなところがあり、特にこういう大ボリュームのオープンワールドゲーなんかは、最初こそ世界の広さに感動してあちこち歩き回るものの、ある程度、だいたい10時間ぐらいプレイしたあたりで代わり映えのしないゲーム性に飽きてしまい、後はそのまま放置してしまうか、あるいは早くエンディングにたどり着くためだけに惰性でいやいやプレイする、という展開になりがちなのだが、本作はクリアまで50時間超、祠コンプリートまで80時間ぐらい遊んでも、一度たりとも「めんどくさい」「飽きた」と思うことがなかった。これは、やはり凄いことである。

なぜBotWが「めんどくさくない」のかというと、おそらくプレイヤーが「自発的」に行動するように、ゲーム全体がデザインされているからだろう。

「A地点に行く」という同じ目的であっても、ゲームから一方的に命令されると「面倒なお使い・作業」になってしまうが、プレイヤーが「自発的」に「A地点に行きたい」と思って行くなら、それは「楽しい冒険」になる

前述の通り、BotWでは「ラスボス(ガノン)を倒す」「そのために4体の神獣を起動させる」という大枠は提示されるが、それ以外の細かい「指示」 は極力抑えられているため、「やらされている」感が薄くあくまで「自分でやりたくてやってる」とプレイヤーに感じさせる。

そして、本作は「○○したい」というプレイヤーの自発的な「欲」を生み出すのがとても上手い
例えば、フィールドを歩いていれば、高い塔が見つかる。塔が見つかれば、登りたくなる。塔に登ればマップに登録されて辺りが散策しやすくなるし、高いところから眺めることで別の塔や祠の位置を確認しやすくなる……という「ご褒美」があるからだ。

塔に登ると、赤く光る祠を確認してマップにピンを打つ。すると、当然その祠に行きたくなる。祠をクリアすればリンクのステータスが強化されるからだ。
そして祠目指して歩いていると、シーカーストーンが反応して別の祠が見つかる。……とまあこんな具合に、「次はあれをしよう」というプレイヤーの自発的な行動欲を途切れさせること無く連鎖させていく
そういうマップ構成になっているので、プレイしていて飽きることがないし、止めどきを失ってついつい何時間も続けてしまうのだ。


 移動が楽しいゼルダ

これまでの3Dゼルダでは「移動が面倒」という共通の問題点があった。
『風のタクト』の広大な海に始まり、『スカイウォードソード』の空、(2Dだが)『大地の汽笛』の汽車移動……「広大なマップ」を舞台とすると、代償としてどうしても移動時間が長くなってしまうのだ。
しかしBotWではこの問題を2つの方法で解決した。

1つは「祠をあちこちに配置する」というマップデザインだ。
祠を見つけるとプレイヤーは嬉しくなる。『ゼルダ』の醍醐味である謎解きを楽しるし、クリアすればリンクが強化される、二重の嬉しさがつまっているからだ。
BotWのマップは、辺りを歩いているだけで自然と自然と見つかるようになっている。これにより、移動は「単なる作業」ではなく「祠が見つかるかもしれない楽しい探索」へと昇華されるのだ。

もう1つは「どんな行き方でも目的地に行ける」という「移動の自由度」を保障したこと。
本作ではただ「A地点に行く」というだけでも、大げさに言えばプレイヤーの数だけルートが存在する。
普通に馬に乗って道を進んでも良いし、強い敵がいない安全な道を迂回しても良いし、河を泳ぎ切り立った崖をよじ登っても良い。

単なる「移動」にもプレイヤーの自発性と独創性が生まれるようになったのだ。BotWにおいて「移動」は作業ではなく「謎解き」であり「娯楽」なのである。


気楽なゼルダ

もう一つ、BotWをプレイしていると終始「気楽だ」と感じていた。
 
これまでの『ゼルダ』シリーズは、「気楽でない」ゲームだった。難しい、シビアなゲームだった。
決してアクションゲームとしての難易度が高いわけではない。ゼルダが難しいのは「謎解き」がゲームの根幹にあるからで、つまり、プレイ中に1つでもわからない「謎解き」があれば、そこから先に進めず詰ってしまうからだ。

もちろん「答えが分からないと解けない」のは、パズルとしては当たり前である。
しかし普通のパズルゲーム(例えば『マリオのピクロス』など)は、色々な問題から任意の問題を選べるので、大抵は1つわからない問題があってもそれを飛ばして別の問題を遊ぶことができる。

しかし従来のゼルダはリニア進行なゲームなので、ダンジョンで1つでも難しい謎解きがあると、そこで詰ってしまう恐れがある。
いくら悩んでもわからないのなら、外部の攻略情報に頼るかプレイを諦めるしかない。いずれにしてもゲームの楽しみを損なってしまう不幸な結果である。

この点については過去作でも憂慮されていたようで、例えば『スカイウォードソード』や『神々のトライフォース2』では謎解きのヒントをゲーム内で見られるような救済策が搭載されていた。
しかしヒントはあくまでヒントなので解けない場合は解けないし、そもそもヒントをもらった時点で「自力で謎を解く」達成感が薄れてしまう点は否めない。

しかし本作では、「分からない謎解きは飛ばしても良い」ようになった。ノンリニアなゲーム進行が、結果としてゼルダシリーズの泣き所を同時に解決したのだ。
祠の謎解きは、クリアしてもリンクが少し強化されるだけなので、分からなければ無視しても良い。 神獣ダンジョンの場合は先に進めないと少し苦しいが、こちらも最悪、無視してもラスボスは倒すことができる。

また謎解きの自由度が高く、「正攻法」以外のゴリ押し気味な方法でもクリアできるようになっているのも、「気楽さ」に一役買っている。
とにかく全体的に謎解きに関してプレッシャーを与えないような作りになっているのだ。「あそび」の部分が大きいので、どんなプレイでもとりあえず先に進めるという「ゆるさ」が作品の器を広げている。

例えばラストダンジョンであるハイラル城。
普通にダンジョンとして見ると、入り組んだマップに「入ると入り口が閉まって強敵を倒さないと進めない中ボス戦」が満載で、いかにもラストダンジョン的な難所に見えるのだが、これは実は全部無視して壁をよじ登ってラスボスの部屋まで行けてしまう
と言うかむしろ、普通にここまでBotWをプレイしてきたプレイヤーなら、ほとんどみんなリーバルトルネードでひとっ飛びしてしまうだろう。

これは明らかに意図的な作りだ。「難しいラストダンジョン」を押し付けるのではなく、プレイヤーに遊び方と冒険の仕方を委ねる。本作のゲーム性を象徴しているダンジョンと言えるだろう。


ゼルダの正統進化系

BotWは「従来の3Dゼルダとは大きく作風が変わった」と言われることが多い(実際この文章でもそんな風に書いている)が、実はそうではない

良く比較されるが、初代『ゼルダの伝説』は開始1秒でフィールドに放り出されどこに行くのも自由、「オープンワールドの元祖」の一つである。
『時のオカリナ』のハイラル平原も「序盤から行ける」「行こうと思えばどこにでも行ける」という点で立派なオープンワールドの一例だし、『時のオカリナ』の青年時代はある程度自由な順で神殿を攻略できるという点でノンリニア進行でもある。

『風のタクト』の海や『スカイウォードソード』の空もしかり。
これまでのシリーズにもあったオープンワールドやノンリニア進行の要素を広げたのがBotWであり、本質はいささかも変化していない。BotWは紛れもない『ゼルダ』の正統進化なのだ。