2023/03/13

ファイアーエムブレム エンゲージ 感想―最高級のゲームバランスと「フワフワした」ストーリー



 『ファイアーエムブレム エンゲージ』を初回クリア(難易度ハード・クラシックモード・DLCなし・約80時間プレイ)したので、現時点での感想を記しておく。よろぴっぴ!

ゲームバランス:SRPG最高峰の完成度

まず最も重要なSRPGとしてのゲームバランスは、一言で言うと素晴らしい。戦闘システムの評価が高い『if』からさらに洗練・改善されており、戦略シミュレーションとしての完成度と面白さは間違いなくシリーズの中でも最高クラスだろう。



本作は全体的に火力が低めに調節されている印象で、敵を倒すには味方数人がかりで攻撃しなければならないことが多い。

高速・高火力ユニット出れば追撃を含めて一戦闘でギリギリ敵を倒せるが、そうしたユニットは耐久面に不安があるように設定されているので、かつてのシリーズでよく見られた反撃で敵を次々と倒す「単騎無双」はかなり難しくなっている

序盤から終盤まで、戦闘面のバランス調節は絶妙である。「攻撃力-守備力=ダメージ」という誤魔化しの効かないシンプルな計算式に、ランダム成長による運要素、武器やスキルといった強化要素も数多くあるにも関わらず、破綻せずにまとまっているのは見事という他なく、FEシリーズのみならずSRPG全体で見ても最高峰のクオリティである。


戦闘システム:理念に裏付けされた新要素

本作は火力が低めな分、相対的に守備の高い壁役のユニット(ジェネラル・グレートナイトなど)が強い。しかし「硬いユニットで壁さえすれば安心」とならないように、いくつもの工夫がなされている。



一つが「連携」システム。連携スタイルの兵種は、自身の攻撃範囲に敵がいると味方の攻撃時に連携攻撃を放ってくれる。
一見『if』の攻陣に近いシステムだが、大きく異なるのは連携攻撃のダメージは敵HPの1割、命中率は80%と固定である点。これにより、どんなに強いユニットでも連携を10回受けるとやられてしまうため、安易な配置にリスクが生まれている。

やや力技なバランス調節に思えなくもないが、壁ユニットで大群を受け止めるというFEおなじみの戦略にも緊張感と新たな戦略性が生まれており、地味ながら本作の「てごわいシミュレーション」らしさを代表するシステムになっている。



他にも、相性不利な武器で攻撃されると反撃できなくなる「ブレイク」や、「○○の大剣」で攻撃されると1マス後ろに動かされてしまう「スマッシュ」も、すべて「強いキャラをぶん投げればなんとかなる」という単騎プレイを抑制するための新システムである。

『風花雪月』の時も書いたが、FEは様々なユニットの力を合わせてマップを攻略するのがSRPGの醍醐味であるにも関わらず、「強いユニットで無双する」戦略が最適解になってしまう、というジレンマに悩まされてきたシリーズである。

この「無双が最適解」なバランスは 『覚醒』 がピークだったが、その後の 『if』 ではデバフ(負の連鎖)、『風花雪月』では計略と安易な無双プレイがし辛い工夫がなされており、本作の連携やブレイクやその流れを汲んでいると言えるだろう。



特に個人的に良いと思ったのが、ボスの仕様。今作のボスは「復活の石」を所持してお り、HPを0にしても石が残っていれば即座に復活する。

単にボスの強さや緊張感を演出するだけでなく、強いユニットが複数いないと1ターンで倒し切ることはできないので、上記と同じく単騎無双の抑制=様々なユニットを育成するインセンティブになっている

加えて、今作のボスの多くは条件を満たすと周囲の敵を引き連れてこちらに突撃してく る
これまでのFEは、ボスは玉座にとどまっていることが多いので、「ボスにたどり着くまでは大変だが、玉座まで行けば後は消化試合」という展開が多かった。

一方『エンゲージ』の突撃仕様では、ボスと相対する際は大抵敵に囲まれたピンチの状況となる。即座にボスを倒してクリアを目指すか、それとも周囲の敵を倒して先に安全を確保するか、緊張感のある判断を迫られるためプレイのメリハリに大きく貢献している。

総じて『エンゲージ』の新システムは、「FEの当たり前」を見直し「どうすればもっと面白くなるか」を真摯に考えた結果生み出された要素だという印象を受けた。


エンゲージシステム:爽快さと戦略性を両立

今作の目玉であるエンゲージシステムも、しっかり作品に溶け込んでいる。



これは「紋章士の指輪」というアイテムを装備すると強力なスキルが使えるようになるシステムで、プレイ前は「エンゲージが強すぎて大味なバランスになってしまうのでは?」とやや不安もあったが、結果的にはまったくの杞憂だった。

確かに紋章士の指輪はどれも強力だが、エンゲージさえすれば簡単にゴリ押しできるというシチュエーションはほとんどない

例えば紋章士マルスのエンゲージ技「スターラッシュ」はダメージ210~270%で攻撃できる強力な技で、多くの敵を一戦闘で撃破することができる必殺技だが、逆に言えば敵を1体倒すことしかできない
FEの難しい局面というのは大抵多くの敵に囲まれた状況であり、スターラッシュで闇雲に敵を1体減らすだけでは状況を打開できないことが多いのだ。

エンゲージは強力だが、それゆえ使うタイミングや使い方が問われる。初心者にとっては豪快な必殺技で爽快なプレイを楽しめるし、中級者~上級者にとっては戦略の幅や攻略の自由度を広げてくれる(そして超上級者なら、エンゲージや指輪を縛ってマゾプレイを楽しむこともできる)。どんなプレイヤーでも使い方次第で楽しめる、幅が広いシステムだと感じた。



過去作で言えば、「ワープ」や「メリクル」などのとっておきの強力なアイテム・武器を使う時の感覚に似ている。
こうした貴重な消耗品はもったいなくてついつい温存してしまい、結局余らせてしまう……というパターンが多いが、エンゲージはターン制限こそあるものの減るものではないので、気楽にダイナミックなプレイを楽しむことができる。

中盤からは敵も指輪やエンゲージを使ってくるのも良かった。 スキルやエンゲージ技もフル活用してくるので、これまでのFEでは考えられないような無法で強力な動きを展開してくるのだが、不思議と理不尽さはない。
おそらく、こちら側も普段から指輪を使っており条件が対等だからだろう。こうしたバランス調節も見事だった。


ストーリー:「戦争」を描かなくなった(のは悪いことではない)

以上のように、本作の戦闘バランスやシステム面は非常に洗練されている。ではSRPGのもう一本の柱、ストーリー面はどうだろうか。

先に言っておくと、自分はFE(というかゲーム自体)にストーリーの面白さをあまり求めておらず、ゲームとして面白ければ満足というスタンスである。それを前提に語ると、『エンゲージ』 のストーリーは、まぁ……こんなものかな……という感じだった。



すごく面白い! と言い切ると正直ウソになってしまうが、ゲームとして普通にプレイする分には特に大きな問題はない。

ストーリー自体は「指輪を集めて邪竜を倒す」というシンプルな展開にまとまっている。ゲームの都合で無理やり戦わされていると感じるような章もなく(紋章士外伝はともかく)、『if』の暗夜編や『風花雪月』の紅花の章のように(強引な理由で)侵略側に立たされて心苦しくなるようなこともない。
良く言えば王道、悪く言えば無難で薄味というのが大勢の評価らしく、個人的にも概ね賛成である。

(ただ15章クリア後、ある敵キャラがノコノコ自陣にやってきたのに、主人公が「あなたなんてもう友達じゃありません!」みたいな軽すぎるノリで追い返してしまったシーンは流石にツッコみたくなってしまったが……。)

もう少し内容を語ると、「戦争」がほとんど描かれていない点が興味深かった。

FEは『ファミコンウォーズ』などのウォーシミュレーションを源流にしていることもあり、これまでのシリーズも国同士の戦争が物語の主軸だった。だが本作は「神竜様と仲間たちの指輪集め」がストーリーの中心であり、本格的な戦争要素はブロディアとイルシオンの合戦シーンが申し訳程度に挟まれる程度である。



敵も「四狗」という邪竜側の幹部4人がメインで、「国と国の戦い」ではなく終始「四狗+αとの戦い」という印象である。

と言っても「戦争を描かないFE」は前例として『烈火の剣』があり、それ自体は悪いことではない。無理に大きな話にするよりも、こじんまりとした話のほうがわかりやすく感情移入しやすいというメリットがある。

印象的なシーンは、やはり22章であのキャラが仲間になる(一応名前は伏せておく)場面。正直それまでは四狗の出番とセリフが多すぎるように感じていたが、あの展開を見てからだと印象が変わった。

件のキャラは立ち位置的にも「もう一人の主人公」と言っていい存在であり、 尺を取って語るだけの理由があると感じた。「いろんなキャラをユニットとして使える」というSRPGの魅力を活かし、しっかり期待に答えてくれた展開だった。


紋章士:「浮いた」存在

一方で、どうしても気になった点が二点ある。 一つは紋章士の設定である。



指輪に宿った異界の英雄・紋章士は、本作を象徴する重要な存在である……が、驚くことにその設定はほとんど説明されることはない
本人たちの話によれば、ケガをしたりお腹が減ることはなく、記憶や人格は保持しているが消えてしまえばそれまでであり、どうしてエレオス大陸に存在しているのかも不明瞭だ。紋章士は常に少し宙に浮いているが、まさにその通り極めてフワフワした存在である。

『ヒーローズ』のように本人が異界に召喚されているという設定ならまだわかりやすいのだが、そうでもない。
メタ的に言ってしまえば、あくまでシリーズファン向けのサービスに過ぎず、あまり深く考えない方がいいという気がする。



もちろん、こうしたフワフワした設定にせざるをえなかった理由もわかる。『ヒーローズ』のような本人設定にしてしまうと、原作との齟齬が生まれたり「1000年前から見守っていた」という設定が成立しなくなってしまう。「よくわからない概念的な存在」にすれば、そのあたりは考えなくていい。

しかしその代償として、紋章士とのつながりを描きづらくなってしまった点は否めない。「異界から来た英雄」であれば交流したり絆を深めたりもできるが、「よくわからない存在」と絆を深めることはできないからだ。

矛盾はないが深い描写もできない。紋章士は実は本作のメインテーマではなく、あくまで看板に過ぎない。


主人公:過去作のミックス……に失敗?

もう一つ、どうしても気になったのが主人公(リュール)の設定である。



本作の主人公リュールは記憶喪失であり、目覚める前=ゲーム開始以前の記憶が残っていない。これは『覚醒』のマイユニット(ルフレ)とまったく同じ設定である。



公式サイトより)

記憶憶喪失は、ゲームの主人公の設定として比較的王道である。その世界について何も知らず、知り合いもいない主人公と、ゲームを始めたばかりで何もわからないプレイヤーを自然に重ね合わせることができる便利な設定だからだ。
『覚醒』もこの記憶喪失設定を上手く活かしており、プレイヤーを自然に作中世界に引き込むことに成功していた。



一方でリュールは神竜様でもある。 これは『if』のマイユニット(カムイ)と同じ設定……というか、ほとんどのFEの主人公と同じ、すなわち「特殊な出生」という属性付きの主人公ということである。

FEの主人公は、マルスやロイなどその多くが一国の王子あるいは王女、すなわち「特殊な出生」の持ち主である。
その意味ではリュールもFE主人公の王道に沿っているのだが、問題は「記憶喪失」と「神竜様」という2つの設定が上手く融合していないことである。

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ゲームの主人公には2種類のタイプがある。プレイヤーが自身を重ね合わせやすいアバタ一型の「没入型」 主人公と、はっきりした個性があり一人のキャラクターとして言動を眺めるように作られた「傍観型」主人公である。

一般的に、没入型主人公(ドラクエ・ポケモン型)はキャラメイクで容姿が変更できたり台詞自体が無いことが多く、傍観型主人公(FF・テイルズ型)は名前変更すらできないことが多い。

これを踏まえて、FEシリーズの主人公を表にすると以下のようになる。



伝統的なFEの主人公は傍観型主人公である。プレイヤーは軍を指揮する俯瞰的な存在であり、主人公の王子はあくまで物語の中心となる―キャラクター、という立ち位置だったた。

一方で『新・紋章の謎』以降の主人公は、いずれも名前変更・性別選択が可能であり、没入型主人公の色が濃い(もちろんルフレやベレト/ベレスを一人のキャラとして傍観的に見ている人もいる少なくないと思うが、この記事ではそう定義することとする)



公式サイトより)

これらのうち、『新・紋章』 のクリス、『覚醒』のルフレ、『風花雪月』のベレト/ベレスは、いずれもプレイヤーが自分を重ねやすい存在として描かれており、没入型主人公としての役割を全うしていると言えるだろう。

竜頭蛇尾「普通の人」なクリスとは異なり、ルフレとベレト/ベレスは終盤に「特殊な出生」が明かされるという点でやや傍観型主人公の要素も入っている。



公式サイトより)

しかし、あくまで序盤から中盤は「普通の人」として描かれるので、没入を阻害するほどではない。主人公に馴染みを持たせてから大きな設定を明かすという手順を取っているので、多くのプレイヤーは驚きながらも受け入れやすいはずだ。



公式サイトより)

これに対し、『if』のカムイは没入型主人公としては特異である。王族 (かつ竜族) であるという設定が最初から明かされているという点は、伝統的な傍観型主人公に近い

一方で名前や容姿は変更可能であり、明確なキャラクター性がぼかされているという点は没入型主人公の要素が強く、いわば両者の折衷案となっている。良く言えば良いとこ取り、悪く言えば中途半端な存在と言うべきだろうか。

そしてリュールは、カムイ以上に両者の要素が深く入り混じっている。神竜という設定はFEの主人公の中でも最大級に「特殊な出生」だが、同時に記憶喪失というこれ以上なく没入型主人公的な設定も併せ持っている。『覚醒』と『if』のミックスと言ってもいい。



この融合が成功しているか否か。判断はプレイヤー次第だが、個人的にはやはり、あまく上手く行っていないように感じてしまった。「記憶喪失の主人公」に自分を重ね合わせられるプレイヤーはいても、「記憶喪失かつ神竜」な主人公に自分を重ね合わせるのはかなり困難だ。

しかしリュールは、そんなアクロバティック極まりない自分の状況(設定)を許容し、ルミエルを「母さん」と受け入れ、神竜様としての自覚を持って指輪探しの旅に出てしまう。序盤で丁寧にプレイヤーを作中に引き込んでくれた『覚醒』や『風花雪月』に比べあまりにも大雑把すぎる。それが残念な点だ。

(ただし上記画像のシーンは、終盤に明かされる真の出生を知ってから見ると、セリフがひらがなになっていることから邪竜だった頃の記憶が無自覚に蘇っていると考えると腑に落ちる。意外と伏線がしっかりしてる……。)

長々と書いたが、要するにリュールはプレイヤーのアバターとしては「神竜様」という設定が邪魔で没入しづらく、逆に一人のキャラクターとしてみると記憶喪失設定のせいで過去が描写できない、どっちつかずな存在に思えてしまう。

やはり、FEにおいて没入型主人公と傍観型主人公は明確に分離させた方が良いのではと個人的には感じる。上に挙げた『新・紋章』『覚醒』『風花雪月』には、実は共通点がある。アバターとしてのマイユニットの他に、物語の中心となる「ロード」が存在する点だ。



『新・紋章』はマルス、『覚醒』はクロム、『風花雪月』は3人の級長が伝統的な傍観型主人公=「英雄」の役割を担ってくれていたからこそ、プレイヤーは安心してマイユニットに「没入」できたのかもしれない。


おわりに:その手が拓く未来 (はまだ先?)



以上の感想をまとめると、「ゲーム部分は最高傑作級、ストーリーや設定はフワフワしてる」となる。
クリアした人の感想を見ても、概ね同じような意見が多い。SRPG部分の完成度が非常に高い分、余計にストーリー部分の緩さが気になってしまうという感じだろう。

フランやユナカ(の演技)に代表される、従来的な「FEらしさ」からあえて外れるような軽いセリフ回しやシーンも多く、設定や雰囲気が「ニチアサ(戦隊もの・特撮もの)っぽい」という意見も見られた。作風やターゲットを模索している部分もあるのかもしれない。



「相反する二つの狭間で葛藤する」という点では、奇しくもカムイやリュールと、FEというシリーズ自体が重なるようにも見える。2人のように、FEというシリーズが自分の進むべき道を選び取る姿をファンとして見届けたいと思う。