2022/06/08

ロジクールのLIFTを1週間使って諦めた ― 縦型エルゴノミクスマウスで逆に手が疲れる理由【レビュー】

先日、ロジクールから発売された新型エルゴノミクスマウス LIFT(M800)を購入した。一般的なマウスよりスイッチ面が斜めに傾いている、いわゆる縦型マウスである。

縦型マウスには前から興味があり、LIFTも使い始めた時点では手に馴染むように思われた。これはいい買い物をしたと満足したのもつかの間、使っていくと不思議なことに普通のマウスより手が疲れると感じてしまった。

「手に優しい」が売りのエルゴノミックマウスなのに? と最初は驚いたが、どうも縦型マウスには構造的なネックがあるように感じ、結局一週間ほどで使用を断念してしまった。

この記事では、LIFTを使用して感じた縦型マウスの構造的な問題点について語りたい。ネガティブな内容になってしまうが、縦型マウスが合わなかった人間の意見として見ていただきたい。

LIFT自体は悪くないマウス

まず最初に断っておきたいが、LIFTはマウスとしての質は十分に高い

ロジクールらしい安定した作りで、静音スイッチは高品質、ホイールは柔らかくて回しやすく、サムボタンも押しやすい。ソールもなめらかに滑り手触りも良い。つまり、自分がこのマウスを使い続けられなかったのは縦型マウスの構造的な問題によるものである。


確かに手首と腕は楽

先に良い点から語ろう。一般に縦型マウスは手首や腕の負担を減らすと言われている。スイッチ面が傾いているため、自然な手の角度を保ったままマウスを握ることができるからだ。

人間が力を抜いて自然に立った時、手のひらは体の内側を向いている。そのまま手を上げると、手のひらは机の面に対して直角、すなわちになる。他人と握手する時の角度だ。

(↑LIFTを握った時の手の角度。手のひらは左を向いている。)

一方普通のマウスは、手を上から覆いかぶせるような角度で握る。この場合、手のひらは机の面と平行になるため、上記の「握手持ち」と比べて90度左に捻った角度となってしまう。

(↑普通のマウスを握った状態。手のひらが机の面を向いている。)

縦型マウスは手をひねらなくていい分、自然にマウスを握る事ができる。これは間違いないメリットだ。

自分もはじめてLIFTを握った時、見慣れない形状であるにも関わらず、すぐに手に馴染んだのに驚いた。手首や腕が自然な角度でリラックスできる。この時点では、確かに巷で言われている通り「体に優しい」見事な発明だと感じた。


しかし親指が疲れる ― クリック時にマウスがズレる問題

しかし、LIFTを使い始めるとすぐに大きな問題に気がついた。クリック時にマウスが微妙に動いて、ポインタがズレてしまうのだ。

普通のマウスであれば、手を上からかぶせて真下に向かってボタンを押し込むので、マウスが動くことはない。しかし縦型マウスは斜めに傾いているので、クリック時の勢いで向かって左側にマウスが少し動いてしまうのである。

もちろん、実際には反対側の親指でもマウスを支えているので思いっきりズレることはないのだが、それでも「クリックしたつもりが少しだけポインタが動いてドラッグ判定になってしまう」といった現象はしばしば起きる。

これを防ぐには、親指に力を入れてしっかりとマウスを固定しなければならない。普通のマウスであれば払う必要のない労力であり、使う必要がない筋肉である。結果、親指の付け根あたりが疲れる。LIFTをしばらく使うと、普通のマウス操作では生じない筋肉痛のような疲労を感じてしまうのだ。

特に疲れるのが、ドラッグ&ドロップ操作時。人差し指でクリックしつつ、親指でマウスを支えつつ、さらに腕でポインタを操作しなければならない。

人差し指の力が強すぎるとポインタが左に飛んでいってしまうし、かと言って弱すぎるとドラッグが途切れてしまう。かなり繊細な力加減のバランスを求められるので、普通のマウスよりずっと神経を使う。

このクリック時にポインタがズレる問題は、おそらく縦型マウスの形状的な宿命だろうから文句を言うつもりはない。角度をつけるほど手首は楽になるがクリック時の安定性は失われてしまう。トレードオフなので仕方ない。

しかし、縦型マウスのレビューでこの問題について触れていない記事や動画ははっきり言って信用できない。それぐらい、使ってみればすぐにわかる明確なデメリットである。この問題をもっと周知してもらいたいというのが、自分がこの記事を書こうと思った理由の一つだ。

(自分もこの問題に関しては、Amazonレビューなどで購入前から把握していた。使っているうちに慣れるだろうと高をくくっていたのだが、実際に試してみると予想以上に手の負担が大きく、考えを改めざるをえなかった。)


小指も疲れる ― マウス形状の問題

こうしてクリック時のクセに悪戦苦闘しながらも、なんとかLIFTを使い続けていたのだが、しばらくするとさらなる問題に気づいてしまった。親指だけでなく小指も疲れるのだ。


↑は、力を抜いて自然にLIFTを握った時の写真である。(分かりづらいが)小指の上に薬指が重なっている状態だ。重力の関係上当たり前なのだが、これが結構疲れる。小指が薬指と机に挟まって常に圧迫されているような感じなのだ。

だがもっと問題なのは小指が机の面に接してしまっている点だ。この状態でマウスを動かすと、小指が机(ないしマウスパッド)とこすれて負担になるし、なにより動かしづらい。普通、マウスを操作する際は(細かい操作でポインタを微調整したい場合を除き)指は机につけない。

小指を机につけないようにLIFTを持とうとすると、今度は小指を常に宙に浮かせる必要があり、やはり疲れる。常にマウスを意識的に小指で握って保持しなければならず、手が緊張してしまうのだ。

これも山のような形状をした縦型マウスにつきものの問題かもしれない。しかし、これこれのように小指を置く場所が確保されている縦型マウスも存在する以上、工夫の余地はあると思う。


縦型マウスがスタンダードにならない理由

まとめると、LIFTは自分にとって手首と腕は楽だが、親指と小指が疲れるマウスだった。もちろん人によって相性はあるだろうし、もっと使っていれば慣れる可能性もあるが、今のところ縦型マウスを使い続けたいとは思わない。

確実なのは、縦型マウスは万人にとって「手に優しい」マウスではないということだ。売り文句に惑わされず、自分に合ったマウスを選ぶべきである。世の中のマウスのほとんどが平べったい形をしているのは、それなりの理由があるのだ。