なにを隠そう(?)私は『ToHeart2(TH2)』のファンで、PS2版・PC版・PS3版はもちろん、(プレイしないのに)PSP版も買ってしまったのだが、そのPSP版に前作『ToHeart(TH)』が付属していた。
初めはプレイするつもりもなかったのだが、THは2と同じ舞台・世界観ということもあり、試しにやってみるととても面白くて、気がつけば全ヒロインクリアしてしまっていた。
ということで、クリアしたルート順に感想(ネタバレ含みます)。
藤田 浩之
「浩之ちゃん」こと本作の主人公。もちろん彼は「ヒロイン」ではないものの、本作で最も重要なキャラクターの一人であり、彼抜きは本作は語れない。
TH2の主人公(タカ坊) は「女の子苦手」という設定こそあるものの、基本的に無個性で控えめなプレイヤーのアバターで、ゆえに時々常識から外れた行動をすると違和感が強い。
しかし浩之ちゃんは、かなり女の子に対して積極的である。
別に「女好きキャラ」というわけでもないのだが、つまり周囲のどんなものに対しても、積極的で気さくで自然体なのである。
ギャルゲー主人公は(特に最近の作品ほど)消極的で受け身な態度が多いため、この積極性はとても新鮮で好印象だった。
と言っても、決して悪目立ちするほどアクが強いわけではない。等身大の男子高校生として描かれているため、感情移入もしやすい。
例えば冒頭で芹香先輩とぶつかるシーンも、普通ならもっと申し訳無さそうな反応をしそうなものだが、浩之ちゃんの場合は「ごめんごめん!わりいな先輩」ぐらいでさらっと流してしまう。このカラッとした態度が心地よい。
例えば冒頭で芹香先輩とぶつかるシーンも、普通ならもっと申し訳無さそうな反応をしそうなものだが、浩之ちゃんの場合は「ごめんごめん!わりいな先輩」ぐらいでさらっと流してしまう。このカラッとした態度が心地よい。
ネットでは「普段はやる気なさげだが、決めるときは決める。」「やる気を出せばなんでもできる」みたいな紹介をされていることが多いが、これは必ずしも正しい分析とは言えない。
「やる気ないキャラ」扱いされているのは、アニメ版1話の印象が強いのではないだろうか。
少なくとも本編では、むしろ普段から周囲に積極的に関わっていくタイプに見える。 女の子と結ばれると「やったぜ~!」と叫んじゃったりするような熱い奴である。
「魅力的なギャルゲーの主人公」の話題になると良く名前が挙がるらしいが、それも頷ける。名実ともに本作の主人公であり中心である。
長岡 志保
最初は比較的とっつきやすそうなキャラを攻略したのだが、この子も浩之ちゃんと同じく自然体な振る舞いが好印象だった。
主人公やあかりたちと気の置けない昔からの友達で、お互いにズケズケと本音や冗談を言い合える仲。
いわゆる悪友・女友達ポジションだが、この手のキャラとしてはかなりリアリティが高いと感じた。
印象的だったのが、中盤にある「主人公が志保の恋人のフリをする」という、それ自体はラブコメによくある定番のイベント。
そこで、志保は主人公にキスするように言うが、結局邪魔が入ってキスはできない。
しかし翌日、学校で昨日のことについて話している時、主人公が「お前、俺とキスしたかったのか?」と訊ねる。
いわゆる悪友・女友達ポジションだが、この手のキャラとしてはかなりリアリティが高いと感じた。
印象的だったのが、中盤にある「主人公が志保の恋人のフリをする」という、それ自体はラブコメによくある定番のイベント。
そこで、志保は主人公にキスするように言うが、結局邪魔が入ってキスはできない。
しかし翌日、学校で昨日のことについて話している時、主人公が「お前、俺とキスしたかったのか?」と訊ねる。
ここで普通のギャルゲーであれば、「なっ、なに言ってんのよ!」と顔を赤らめてツンツンするのがお約束だろう。
しかし志保はここでもあっけらかんと「そうね~、なんでかしら?」と(しらばっくれているのではなく)本気で悩んで、そのまま何事もなく会話が続いていくのである。
ギャルゲー的なテンプレリアクションではなく、あくまで一人の人間としての「志保」の反応を見せてくれた気がして、とてもお気に入りのシーンだ。
来栖川 芹香
個人的に本作で一番印象に残ったキャラ。「来栖川財閥」のお嬢様で、おっとりのんびりした性格ながら趣味は黒魔術という天然な一面も併せ持つ。
属性的にはわりと王道だが、「声が小さいので全編通してまともにセリフを発するシーンが数えるほどしか無い」というギャルゲーヒロインにあるまじき設定が特徴でもある。
だが勘違いされがちだが、彼女は「無口キャラ」というわけではなく、ただ声が小さいのでプレイヤーにはセリフが届かず、代わりに主人公が「えっ、○○だって?」と聞き返すという形で会話が成立するという演出であり、その部分のセリフも含めると別に口数が少ないわけではない。
主人公とは出会ってすぐに普通にやり取りする関係になるが、あくまで自分の趣味(占いや黒魔術)を披露する相手としての認識であり、知り合い以上友達未満の距離感が絶妙に描かれている。
お嬢様で世間ずれしていないからか、主人公の冗談にも真面目に返してくれたり、仲良くなるとプールに自分から誘ったり積極性もある。
プレイしていくと、次第に彼女が何を考えているのか分かる(ような気になる)のが凄い。
プレイしていくと、次第に彼女が何を考えているのか分かる(ような気になる)のが凄い。
セリフも発さず表情も変えないはずなのに、感情が読み取れるようになるのだ。繊細な描写の賜物だろう。
宮内 レミィ
サンフランシスコから来た明るいハーフ金髪娘。いわゆるルー語を操り、日本文化が好きでスキンシップが激しい。今見るとテンプレ通りの造形だが、逆に言えばレミィがこの手のキャラの始祖だったのかもしれない。
第一印象に反して、良くも悪くもアクが薄く優等生的なキャラだと感じた。脇役で活きるキャラな気がする。いい子なんだけどね……。
保科 智子
眼鏡に三つ編み、関西弁にツンツンした性格……なんだか90年代を感じる造形のヒロイン。レミィとは対照的に一見とっつきにくいキャラだが、その分ゲームを進行させるごとに彼女の可愛い部分を見ることができ、ギャップを楽しめる。
メガネを外して髪を下ろすと凄い美少女……という王道の展開もしっかりあるが、これもツンツンした時期が長いからこそのカタルシス(?)だろう。
メガネを外して髪を下ろすと凄い美少女……という王道の展開もしっかりあるが、これもツンツンした時期が長いからこそのカタルシス(?)だろう。
シナリオもしっかりしていて、神戸にいる片想い幼なじみたちへの感情が、あくまで彼女の話の中だけでしっかり描写されている。
それゆえ、主人公は失恋した彼女の寂しさに付け込んでるように見えなくも無いのだが……。
松原 葵
格闘技少女。空手の先輩との確執と妥当が描かれる、(作中でも言われてたが)少年漫画的な王道展開。この本筋がメインメインな分、ほのぼのした日常シーンが少ないのが少し残念。
健気な後輩というアクのないキャラだが、話としてはあまり楽しめなかった……。
やっぱギャルゲーに重要なのはヒロインの魅力であってシナリオは二の次だと思っているので、格闘技うんちくとか決戦シーンは読み飛ばしてしまった。
キャラがみんな格闘技について喋り過ぎな気がする。格闘家なら拳で語って欲しいな……。
キャラがみんな格闘技について喋り過ぎな気がする。格闘家なら拳で語って欲しいな……。
来栖川 綾香
芹香先輩の妹。姉とは反対に明るくて気さくな性格。自然体な態度が主人公と似ていて、魅力的なキャラである。芹香先輩の(姉ではなく)「妹」というのもポイント。
キャラ的には先輩の方が似合っているように見えるが、もしそうなら単に「主人公が振り回される」というありがちな構図になってしまう。
あくまで主人公と同学年の、対等な立場だからこそ描ける絶妙な関係だと思う。
ただストーリー的には、終盤のボクシングイベントが冗長すぎると感じた……。せめて格ゲーのミニゲームでも入れてくれればアクセントになったのだが。
そもそも綾香がエクストリーム(格闘技)のチャンピオンと言う設定自体、なんだか取ってつけた感がある。
PS版追加キャラということもあってか、ラストもあんまり付き合ってる感なく、ラーメンを食べて終わり。
至って健全な関係だが、2人のキャラ的にはぴったりの終わり方だと思う。
姫川 琴音
90年代SFジュブナイルのかほり漂う超能力美少女。超能力が暴走してよくガラスを割ったりするので皆から恐れられている。
「私に近づと不幸になる……」みたいな王道(?)セリフもしっかり抑えている。
しかしストーリー的には、攻略期間が短いこともあって印象が薄い。
しかしストーリー的には、攻略期間が短いこともあって印象が薄い。
超能力が琴音の「悲劇のヒロイン性」を演出する道具としてしか使われておらず、結果的に琴音も「かわいそうで健気な少女」という記号に留まってしまっているように感じた。
ラジオにこっそり投稿したりしてるあたりは可愛いけどね……。
アニメ(旧版)では雅史に気があることになってて一部のファンの物議を醸したそうだけど、個人的にはなんだか納得の行く配役である。
マルチ
ToHeartの代名詞的有名キャラ。「世のプレイヤーたちを泣かせまくった伝説のヒロイン」と聞いていたので、ハードルが上がった状態でのプレイだったのだが、素直な感想は……短い。とてもあっさり。いや、長すぎるよりはずっと良いんだけどね。
キャラとしては、一生懸命だけど失敗やドジばかりの健気なキャラ。
主人公と学校で出会い交流を深めるものの、データ取りのために永眠=擬似的な死別を迎える。
ロボットを取り扱うテーマとしては超王道な展開である。故に今プレイしても感動というより既視感の方が強かった。
うーん、マルチに思い入れを持てなかった理由を強いて考えれば、彼女がドジするたびに「ごめんなさい~!私駄目なロボットなんです~!」と大げさに泣くところかもしれない。
個人的には「失敗しても明るく頑張る」タイプ、あるいは『TH2』のシルファみたいに「強がってるけど実は人が苦手」みたいなキャラのほうがいじらしく感じるのだ。ごめんね、マルチ……。
神岸 あかり
初登場時は幼く野暮ったい三編みが印象的で、「この子がメインヒロインで大丈夫か……?」と不安にさせられるが、それは意図的な演出。あかりのルートに入ると、中盤でショートカットにイメチェンして一気に垢抜けるようになる。
これは上手い演出だ。あかりルートは「主人公が幼なじみを異性として意識する」話だが、ここでプレイヤーと浩之ちゃんの心理がしっかりシンクロするのだ。
あかりはゲームとして攻略難易度が高く、他のヒロインと同時攻略しつつあかりを優先する選択肢を選ばなければエンディングまでたどり着けない。
それ故、多くのプレイヤーがあかりを攻略するのはゲーム後半になるはずで、つまりあかりが三つ編みの髪型の状態を(他のヒロインを攻略している間も)ずっと眺めることになる。
「あかりはあくまで冴えない幼なじみ」という前提を植え付けられた後で、あのショートカット姿になる。だからなおさら印象が強くなるのだ。
キャラとしても、主人公を(幼なじみとして)好いているものの、決して盲目的にベタボレしているわけではなく、適度な距離感を保っているあたりに人間味がある。
のんびりした性格だが、場面によっては調子に乗ったり冗談を言ったりするあたりも魅力的だ。声の演技も良い。
ただその分、終盤の展開は色々と気にかかる。特に主人公の態度。
あかりの天使のような度量がなければ普通はバッドエンドである。
キスのシーンがクライマックスとして見事だっただけに、その後の展開は蛇足に感じてしまった。それも含めて恋愛上のすれ違いということなのだろうか……?