2016/10/21

「延長戦」が生んだ逆転劇 『いちご100%』の結末について


『いちご100%』を初めて通して読んだ。
週刊少年ジャンプで連載していたときは「お色気ラブコメ枠」としてしか認識していなかったのだが、改めて読むと「青春もの」としても優れた作品だと思った。

特に印象的だったのは、やはりラストの展開、すなわち東城ではなく西野と結ばれるという、ラブコメの予定調和をぶち壊したエンディングである。

2016/07/26

なぜ比呂は高速スライダーを投げなかったのか―『H2』の結末・最終回について


夏なので『H2』を読み返していたが、やっぱり面白い。
高校野球漫画として大傑作なのはもちろんのこと、今回は恋愛作品としての結末、すなわちひかりが主人公の比呂ではなく英雄を選ぶというエンディングに考えさせられた。

初めて『H2』を読んだときは、この終わり方に結構な衝撃を受けた。
主人公は比呂で、メインヒロインがひかり。あだち充(に限らないが)マンガの定石として、2人がくっつく以外の終わり方は想像していなかった。
しかも最後の試合(甲子園準決勝)で、比呂は英雄を三振に取ったのだ。試合に勝ち、勝負にも勝ったのに、恋愛では負けた。こんな終わり方をする野球・恋愛マンガは他に無いのではないか?

しかし今回じっくり読み返して、この展開は決して突飛ではない、必然的な結末だと思い返した。
すなわち『H2』は、「比呂がひかりに(ちゃんと)失恋するまでの話」なのである。

2016/06/15

木下古栗 単行本未収録作品感想


死屍累々の日本現代文学シーンにおいて、今最も価値のある作品を書いている作家といえば、もちろん木下古栗である。

一度ハマれば、木下古栗がなければ生きていけない身体になってしまう麻薬的な魅力を誇る作家だ。中毒者たちは必然的に、作品集『ポジティヴシンキングの末裔』『いい女vs.いい女』『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』のみならず、単行本未収録作を求めて文芸誌のバックナンバーを漁る羽目になるのである。

Wikipediaの作品リスト参照)

2016/06/13

ガラスケースに閉じこめて―『ライ麦畑でつかまえて』続編騒動とサリンジャーの伝記


サリンジャーに関する評伝を何冊か続けて読んだ。
特に興味深かったのは、2009年に起きた『ライ麦畑でつかまえて』の「続編騒動」にまつわるエピソードだった。

2016/05/29

【桃鉄】桃太郎電鉄16 便利系カード私的評価一覧


『桃太郎電鉄16 北海道大移動の巻!(桃鉄16)』を1人で延々とプレイしていたのだが、本作の攻略情報はあまり充実してないようなので、便利系カードの個人的評価と寸評を以下にまとめた。

(※以下はあくまで『16』における評価であり、Switch版など他シリーズでは効果が異なるカードもある点に注意。)

2016/01/09

豊島ミホという小説家、という小説 ~全作感想


豊島ミホという小説家が、いた。

いた、と過去形なのは、豊島ミホがデビューから6年後の2008年に「休業宣言」として、「小説家を休業する(辞める)」と誌上で公言したからだ。
普通小説家というのは「いつの間にか作品を出さずに消えている」ことがほとんどなので、豊島ミホのようなケースは珍しい。

この記事では、そんな豊島ミホという小説家がいた記録として、全作品の感想を語りたい。