『ミラーズエッジ』より |
世の中には2種類の人間がいる。ゲームで酔う人間と酔わない人間だ。
この記事を読んでいるあなたは、おそらく「酔う側」の人間だろう。きっと「ゲーム 酔う」といったキーワードで検索してこの記事を見つけただろうから。酔わない人間は、わざわざそんなワードで検索しない。
安心して欲しい、何を隠そう私もゲームでとても酔いやすい側の人間である。同士よ!
3D画面のゲームは、普通にプレイしているだけで高確率で気分が悪くなってしまうし、場合によっては2Dのゲームですら普通に酔う。私にとってゲームをプレイする上で最大の敵は、強いボスキャラではなく画面酔いである。
この「ゲーム酔い」は体質の問題らしく、「酔わない」人は「酔う」人の感覚がまったく理解できないそうだ。私も小さい頃は気にせず『スーパーマリオ64』などをプレイしていたはずなのだが、いつの間にかこんな体質になってしまった。
残念なことに、ゲームのプレイヤーは「酔う」人より「酔わない」人の方が多いらしい。すなわち、ゲームは「酔わない」人が「酔わない」人に向かって作っている娯楽なのだ。
面白そうだと思って買ったソフトが、3D酔いのせいでろくに遊べなかった……。そんな悲しみを経験したことがある人も少なくないはずだ。
すべての悲しき「酔いゲーマー」のため、この記事では「ゲーム酔い」について考えたい。
『レインボーシックス シージ』より |
まず「酔いやすいゲーム」の代表例として挙げられるのが、FPS(一人称シューティング)だろう。
FPSの人気タイトルは無数に存在するが、私のような「酔いゲーマー」には、そもそもプレイすること自体が困難のベリーハードなジャンルである。画面を見ているだけで、瞬く間に頭痛と吐き気に襲われてしまう。
画面酔いは、「目で見る景色は動いているが、自分の体は動いていない」という映像と体のギャップで脳が混乱することにより発生するそうだ。車酔いと同じ原理である。
ゲームにおける一人称視点は、画面のリアリティや臨場感を演出するために採用されているのだろう。しかし、「酔う」側のプレイヤーから言わせてもらえば、ゲームの一人称視点は全然「リアル」じゃない。
なぜなら、現実の人間の視野はモニターの横幅よりもずっと広いからだ。中途半端にリアルに寄せている分、余計に脳が混乱して酔いやすくなってしまうのである。
また一人称視点は視野が狭いので、周囲を確認するためにカメラを大きく動かす必要がある。これにより画面の動きがさらに大きくなり、酔いやすくなる。
特にFPSは「敵を素早く狙って撃つ」ゲームであり、常にカメラやレティクルを動かして周囲を警戒する必要がある。あらゆる要素がプレイヤーを酔わせるための搭載されている、酔いゲーマーにとってはラスボスのように邪悪なジャンルと言えるだろう。
三人称でも酔う(ゲームによる)
一人称はもちろん、三人称(TPS)でも酔う。
三人称ゲームの厄介な点は、油断してしまう点である。一人称視点であれば「絶対に酔うだろうな」と最初から分かっているから、自分のような「酔うゲーマー」はそもそも最初から近づかない。
しかし三人称視点の場合は、ゲームによって酔うかどうかはまちまちなので、「これは大丈夫かな」と安心(油断とも言う)して触ってしまい、結果大失敗……という悲劇が起こってしまうのだ。
『Goat Simulator』より |
現に、私がこれまでプレイしたゲームの中で一番酔った作品は、『Goat Simulator』という三人称アクションゲームだ。
『Goat Simulator』は、プレイヤーがヤギになって箱庭マップを探索するユーモアあふれるインディーゲームだ。スマホ版がセールで100円ぐらいだったので気軽な気持ちで購入したのだが、プレイ後、誇張抜きで半日寝込むほど酔ってしまった。
カメラワークが不安定なことに加え、スマホの小さい画面でプレイしたのも一因だと思っている。画面が見づらいほど脳に負担がかかり、酔いやすくなるのかもしれない。
他に印象に残っているのは、3DSの『新・光神話 パルテナの鏡』です。
このゲームは、各ステージの前半が「空中を飛ぶレールシューティング」、後半が「地上を進むTPS」という形式で進行するのだが、前半のシューティングパートは意外にもあまり酔わなかった。カメラアングルが固定されているからかもしれない。
『新・光神話 パルテナの鏡』より |
しかし後半のTPSパートはものすごく酔った。
- カメラが操作キャラに近い。
- タッチパネルを使った独特のカメラ操作が難しい。
- キャラの移動の感覚も独特。
- 3DSのソフトなので画面の解像度が低い。
- 狭い場所でパズル的ギミックをこなす場所が多い。
定番タイトル『スプラトゥーン2』も、自分にとっては酔いとの戦いばかりが記憶に残っている。
このゲームはコントローラーを傾けて照準を定めるジャイロ操作がウリだが、自分の場合ジャイロ操作なんてしようとするとたちどころに酔って戦いになrない。
それでも『スプラトゥーン2』は、ジャイロ機能をオフにすればなんとか数十分続けて遊べる程度にはなった。その意味では、シューティングの中では酔いづらいタイトルと言えるかもしれない。
どうも酔いやすい三人称3Dゲームは、「カメラが操作キャラクターに近い」という特徴があるようだ。『Batman: Arkham City』をやったときにそう思った。
『Batman』は三人称視点だが、カメラが操作キャラ(バットマン)に近い、いわゆる肩越し視点だ。
カメラが操作キャラに近いほど視野が狭くなり、周囲を把握するためにカメラを大きく動かす必要が生まれる。結果、視点がブレやすくなり酔いやすくなるようだ(肩越し視点は鬼門で、『バイオハザード5』ももちろん酔った)。
『Batman』は画面が暗いのも辛かった。
アーカム・シティは荒廃しているので仕方ないのだが、画面が暗いと情報の把握が難しく、結果周囲を把握するためにカメラを多く動かすようになり、酔いにつながるようだ。
フレームレートが不安定なゲームも危険だ。
私は通常版PS4で『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』をプレイしたが、全体的にフレームレートが不安定で画面がしょっちゅう処理落ちし、そのたびに酔った。
プレイヤーは、「自分がこう操作すれば、画面はこう表示されるだろう」と予想しながらゲームを進める。フレームレートが落ちると、プレイヤーの予想とゲームの表示がズレるため、脳が混乱し酔いに繋がる。
最近の有名タイトルでは『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』も、フレームレートが不安定ということで(悪い意味で)話題になった。発売直後のTwitterでは「ポケモンで酔う」という嘆きが多く見られ、我々酔いゲーマーの苦しみが世間の人々にも共有される稀有な機会となった(良いことではないが……)。
2Dですら酔う
「ゲームで酔う」というと3Dゲームだけの話に思えるかもしれないが、残念ながらそれは間違いだ。ゲームによっては、2Dでも問題なく酔える。
最近の例で言えば、記事も書いた『ゼルダの伝説 夢をみる島』。
ミニチュア調の美しいグラフィックが魅力の作品ですが、2Dなのに酔って大変だった。画面の端がボケているような画面演出が酔いに作用してしまったようだ。
想定外だったのは『Trials Rising』。前作の『Trials Fusion』ではまったく酔わなかったのに、なぜか『Rising』で急に酔うようになってしまったのだ。
これもフレームレートの問題だ。『Fusion』は60fpsで安定していたので問題なかったのだが、『Rising』はプレイ中に処理落ちやプチフリーズが頻発するため、プレイがしづらいだけでなく酔いやすくもなってしまった。
我ながらひどいと思ったのは『ファイアーエムブレム 風花雪月』。敵やオブジェクトが多いマップでカーソルをスクロールさせると画面が少し処理落ちするのだが、それで酔った。どんなゲームであっても、処理落ちするだけで簡単に気持ち悪くなってしまうのだ。酔いに弱すぎる……。
酔わないゲームもある
こう書くと、自分がどんなゲームでも酔ってるように思われるかもしれないが、もちろん酔わずに最後まで楽しめた3Dゲームもある。
例えば、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は100時間以上プレイしたが、ほとんど酔いを感じることはなかった。おそらく冒険の舞台が広い自然ということもあり、カメラが操作キャラから少し離れているのが大きかったのだと思う。丁寧に作られたゲームはカメラワークも考えられており、酔いづらいのだ。
他には『NieR:Automata』。
初期設定のままだととんでもなく酔ったので「またやってしまったか……」と思ったのだが、このゲームはカメラの設定を非常に細かく変更することができるので、カメラの位置を遠くしたり自動補正を切ったりと色々カスタマイズした結果、酔わなくなった。
家庭用ゲームでこれほど細かくカメラ設定をいじれるゲームは珍しいが、とにかく酔いの根源はカメラにあると改めて感じた体験だった。
同じ例では『メタルギアソリッド5 ファントムペイン』。これも初期設定だと酔いやすかったのだが、オプションで「画面揺れのエフェクト」をオフにすると酔いにくくなり、最後までプレイできた。
酔い止めはオススメ:『ポケモンスカーレット』の酔いを克服した体験談
では自分のような「酔いやすいゲーマー」は、「酔うゲーム」に対してどうすれば良いのだろうか?
最も効果的なのは酔い止めを飲むことだ。ゲームをやるのに薬を飲むなんて……と自分も最初は抵抗があったが、『ポケモンスカーレット』であまりに酔ってしまうのでダメ元で酔い止めドロップを飲んでみたところ、かなり効果があった。
酔い止めを飲んで酔いやすいゲームをすると、少し頭がフラッとはするものの、決して不快な感じではない。お酒を飲んでほろ酔いになっているような感じで、問題なくプレイすることができた。
酔い止めが良いのは、ゲームのカメラに慣れるまでの時間を与えてくれることだ。酔い止めを飲みながらある程度プレイしていると、だんだんとゲームのカメラアングルに慣れてきたり、「気持ち悪くなりづらいカメラの動かし方」を学んでくる。そうすれば、そのうち自然と酔い止めなしでもプレイできるようになる。自分もこの方法で『ポケモンスカーレット』をなんとか最後までプレイすることができた。
他にもガムを噛んだり、画面から離れてプレイしたり……と様々な工夫ができるが、やはり最も確実で即効性のある対処療法は「酔い止めを飲んでゲームに慣れる」ことだと思う。
おわりに:酔いのない世界を願って
とは言え、やはり酔うかどうかは当人の体質とゲームとの相性による。購入前には動画を確認するなどして、「酔わない」自信がある作品を探すのは大切だ。
個人的には、『ニーア オートマタ』のようにカメラ設定の自由度が高い作品が増えてくれればと思っている。カメラさえなんとかなれば、ゲーム酔いは防げる。もっともカメラワークはゲームバランスにも関わる要素なので、容易ではなさそうだが……。
願わくば、ゲーム制作者が少しでも「ゲーム酔い」する人々のことを考えてくれればと思う。そのためにも、我々「酔うゲーマー」は声を上げ、常に「このゲームは酔う」「これは大丈夫」と情報交換するべきだろう。