『風来のシレン5 フォーチュンタワーと運命のダイス』をプレイ中。
本作は2010年のDSソフトで、2015年にはPSVitaに移植されているが、それを最後に『シレン』シリーズは音沙汰が無くなり、新作が出る気配は無い。
チュンソフトが誇る「不思議のダンジョン」シリーズの代名詞であり、熱烈なファンが多いシリーズでもある『シレン』だが、このままフェードアウトしてしまいそうな気配がしている……。
しかし、そうなったとしても仕方ないという諦観もある。
『シレン』は確かに面白くて奥深い。だが同時に、その面白さ・奥深さを初心者やライトユーザーに伝える方法に苦労し続けてきたシリーズでもあるからだ。
持ち込み有り/無し間の高い壁
この記事で語りたいのは、いわゆる「アイテム持ち込み有り/無し」というルールについてである。基本的に『シレン』は、クリア前のストーリーダンジョンは「事前に準備したアイテムを持ち込む」ことが許されている。これが「持ち込み有り」ダンジョンだ。
一方でエンディングを見たクリア後には「アイテムの持ち込みは禁止・ダンジョン内で入手したアイテムのみをやりくりして攻略する」ダンジョンが解禁される。これが俗に「持ち込み無し」と言われる。
「持ち込み有り」ダンジョンは、武器や防具を地道に鍛えて強力なアイテムを揃えれば難易度は下がる。
事前の準備や作業によって難易度を調整できる、いわば一般的なRPGと同じ作りになっている。
一方「持ち込みなし」ではそのような調整はできない。
拾えるアイテムは運次第で、自分にとってどんなに難しいと感じても難易度を引き下げる方法は(救助など一部を除き)ない。このストイックさが『シレン』ファンをひきつけ、また様々なドラマを生んできた。
このため、しばしば『シレン』は「エンディングを見るまでがチュートリアル」とも言われる。
まず「持ち込みあり」ダンジョンでゲームのルールを理解した上で、「持ち込みなし」ダンジョンという「本番」に挑むことができるというわけである。
しかし、果たして「持ち込みあり」ダンジョンは「持ち込みなし」ダンジョンの「チュートリアル」となっているのか、という疑問があるのである。
ストーリーは「チュートリアル」として機能しているか?
例えば、 『シレン5』のストーリーダンジョンはなかなか難易度が高い。特に終盤のボスが強く、生半可な装備やアイテムでは力負けしてしまう。ボスを安定して倒すには、前述の通り武器を鍛えてアイテムを揃える必要がある……がそういった「持ち込みありダンジョンの攻略法」は、クリア後の「持ち込みなしダンジョン」 には通用しない。
持ち込みなしダンジョンのクリアで問われるのは、「地道な準備」ではなく、「階層ごとに出現するモンスターテーブルの把握」であり「アイテムを集める層と即降りする層の見極め」であり「矢稼ぎ・食料稼ぎ・泥棒などのテクニック」である(そして、こういったノウハウはゲーム内ではろくに教えてもらえない)。
RPG的な「準備」が重要な持ち込みありダンジョンと、ボードゲーム的(『シレン』はしばしば麻雀に例えられる)なアドリブ性が重要な持ち込みなしダンジョンでは、極端に言えば「別ゲー」 と言っていいほど性格は異なる。
にも関わらず、『シレン』は初代から持ち込みありストーリーダンジョンを、持ち込みなしクリア後ダンジョンの簡易版、ということに(強引に)してきた。
しかし実際には両者は別者なので、ストーリーをクリアしても持ち込みなしダンジョンの攻略の仕方が分からないし、持ち込みなしの醍醐味――強力なアイテムを拾った時の喜び、ランダム生成で先が読めないダンジョンと敵が織りなす偶然の妙、絶体絶命のピンチを知識とアイデアで切り抜けた時の達成感――を味わう前にプレイを止めてしまう。
これが『トルネコ』から続く「不思議のダンジョン」シリーズの構造的な問題だった。
「地底の館」という新たな可能性
さて、しかし『シレン5』ではこの問題に一石を投じたダンジョンが存在する。それが「地底の館」だ。「地底の館」はストーリーダンジョンとは別の独立したダンジョンで、冒険の拠点となる街にあり、序盤から自由に挑むことができる。
参考:地底の館 風来のシレン5 フォーチュンタワーと運命のダイス Wiki |
エンディングまでがチュートリアル……なんてもったいぶったケチなことは言わずに、初心者でもすぐに気軽に持ち込みなしダンジョンに挑むことができる。
持ち込みなしダンジョンの楽しさを知る一番良い方法は、やはり自分で実際にプレイすることである。
しかし(シリーズにもよるが)持ち込みなしダンジョンというのは、色々な意味でプレイのハードルが高い。
解禁条件だけでなく、クリア条件もそうである。
例えば初代『シレン』の持ち込みなしダンジョン『フェイの最終問題』は99階まで到達しなければクリアできない。
この時点で初心者が気軽に挑むにはハードルが高い。何度かプレイして、クリアできなかったら多分諦めてしまうだろう。
一方、地底の館が上手いのは、区間を10階ごとに区切っていることである。
10回階段を降りればクリア。単純に1回のプレイ時間が短いので気軽に挑戦できるし、失敗しても費やした時間が短いのでさほど苦にならずすぐにリトライできる。
よく、「持ち込みありダンジョンはゲームオーバーになると(時間を掛けて鍛えた)装備が消滅してしまうが、持ち込みなしダンジョンならゲームオーバーになってもリスクがないので気軽に挑戦できる」……と言われるが、これは必ずしも正しくない。
確かにアイテムがロストするリスクはないが、持ち込みなしダンジョンでもプレイごとにアイテム識別や矢稼ぎといった「作業」が強いられるし、ゲームオーバーになればそれらは無駄になる。決して持ち込みなし=気軽という図式が成立するわけではない。
しかし地底の館は、とにかく1プレイのサイクルを短くすることで、その問題を解決した。
プレイ時間は短くとも、持ち込みなしダンジョンの醍醐味はしっかり存在する。
アイテムの取り捨て選択、敵と出会った際に交戦すべきか逃げるべきかの逡巡、運要素と知識と戦略のバランス、HPわずかで階段に駆け込む際のハラハラ……持ち込みなしダンジョンの一番「美味しいところ」がしっかり凝縮されている。
この点で「地底の館」は持ち込みなしダンジョンの入門としては最良と言える。スマホなどで軽くプレイするのにも向いてるだろう。
もし次回作があるなら、いっそのことストーリーダンジョンは持ち込みありではなく、このような「短い持ち込みなしダンジョン」の形式にするのもありだろう。
アイテムの取り捨て選択、敵と出会った際に交戦すべきか逃げるべきかの逡巡、運要素と知識と戦略のバランス、HPわずかで階段に駆け込む際のハラハラ……持ち込みなしダンジョンの一番「美味しいところ」がしっかり凝縮されている。
この点で「地底の館」は持ち込みなしダンジョンの入門としては最良と言える。スマホなどで軽くプレイするのにも向いてるだろう。
もし次回作があるなら、いっそのことストーリーダンジョンは持ち込みありではなく、このような「短い持ち込みなしダンジョン」の形式にするのもありだろう。