2019/05/15

『LoveR ラヴアール』感想 省エネなTLS、あるいはこれからの恋愛シミュレーション(はあるのか)


『LoveR』(無印・PS4版)を全ヒロインクリアしたので、たまには普通のゲーム感想でも。

まごうこと無く「いつものTLS」

『LoveR』は1996年に発売されたPS用作品『トゥルー・ラブストーリー(TLS)』の流れを汲む、TLS一族の末裔である。誰がなんと言おうと、そうである。
公式にもTLSの系譜であることをアピールしていた。

…のだが、現在は何故か「認知」を拒否しているような言い方である(公式サイトより)。

ちなみに自分はTLSシリーズは概ねプレイ経験あり(『レコラヴ』だけはVitaを持ってないので未プレイ)。

ともあれ、『LoveR』はTLSシリーズの遺伝子をまごうこと無く継承している。
「校内の場所を選んでヒロインとランダムエンカウント」「他愛のない日常会話で好感度を上げる」「ヒロインとの最大のイベントは放課後の寄り道」という恋愛ゲームとしては極めて地味で現実的、しかしそれゆえリアリティのある作風はそのままだ(※『アマガミ』だけはプロデューサーが異なる都合で、他のTLSシリーズとシステム面が大きく異なる)
古来から変わらぬメイン画面

自分は、このTLS(&後継作)の「地味」な作風が好きだ。

『ときメモ』が「平日は自分磨きに勤しみ、休日にデートして気に入られる振る舞いを演じる」という「ハレの日の恋愛」を描くのとは対照的に、「気になるあの子と学校で顔を合わせてちょっとした会話をするだけで嬉しい」という「ケの日の恋愛」を描いた稀有な作品だと思う(『ときメモ』も好きだけどね)。

なので、よく言えば過去作そのまま、しかし悪く言えば新鮮味が無いのも事実だ。
特に『フォトカノ』とは、「無趣味な主人公が親からカメラをもらってヒロインを撮影するようになる」という大筋や「魔法少女のコスプレをする妹」という要素も同じで、プレイ中はたびたび「フォトカノをPS4でやっている」錯覚に襲われた。良くも悪くもそれぐらい変わってない。


テンポが良い(結構重要)

このゲームの一番良い点は、テンポが良いことだ。

地味に思えるが、大事なことだ。なにしろ、フォトカノ(PSP版)は自分が人生でプレイした中でもっともテンポが悪いゲームだったからだ。
とにかくロードが多て長く、なにをするにも長い待ち時間が発生する。『フォトカノ』は良いゲームだっただけに、あのテンポの悪さが完成度に大きく傷をつけていた。

それが今作では大幅に改善されており、ほとんどの場面で待ち時間なくサクサクプレイできる(ただし移動場所を選択する画面に入ると、ちびキャラが登場する演出で少し待たされる)。

シリーズ伝来の化石システムである「ヒロインとのランダムエンカウント」も、狙いのヒロインを選択するとエンカウント率が表示されるようになった。
素の状態でもエンカウント率は高いが、さらに毎日補充される「マジカルゲージ」を使用することで容易に100%まで高められる。

会話も、基本的にどんな話題を選んでも成功するようになったため攻略上でランダム性に悩まされることはほぼ無くなった。

個人的には「会話がマッチしても、相手が嫌いな話題だと好感度が下がる」というシステムが好きだったので、『フォトカノ』以降会話の難易度が下がったのは少し寂しくもあるが、ユーザーフレンドリーなシステムになっているのは間違いないだろう。
でも「からかう」ばっかり選ぶと叱られるよ!

いろいろ省エネ

一方ネガティブな面を指摘すると、全体的に薄味である

まず単純なボリューム面だが、TLSシリーズは(『Summer Days』以降)1人のヒロインにつきルートが2つあり、序盤の選択等によってストーリーが分岐するのが定番になっていた。1プレイの長さを抑えながらも全体のボリュームを確保する合理的なシステムだったのだが、今作はヒロインごとにルートは1つだけ

キャラクターの少なさも顕著で、ヒロインの6人を除くと、立ち絵が存在する脇役は担任の先生と写真部の同僚の2人のみ。イベントも少ない。
学校生活の日常描写もかなり減ったため、校内がとても閑散と感じられる。
女の子のパンチラを撮ったときだけ出てくる(一応)友人キャラ

なんというか、全体的にとても「省エネ」に作られていると感じた。

事実、本作はかなり少人数での開発だったようだ。
つまり今作は「限られた予算と期間の中、過去作のフォーマットを流用して必要最小限の要素で構成した小品」と捉えるべきかもしれない。

設定が掘り下げ不足

TLSシリーズの魅力の一つは「リアリティ」である。
「普通の学校生活」をベースに、ちょっとだけ理想的なヒロインとの日常と恋愛を描く、その絶妙なバランスこそがこのシリーズの醍醐味だ。

しかし本作ではこの「リアリティ」も薄れていると感じた。おそらく舞台設定が原因だろう。
これまでのTLSシリーズの舞台は「普通の高校(or中学)」だったので、そこに引っかかるプレイヤーはいなかっただろう。

しかし本作の舞台は「小中高一貫の全寮制の学園」という、やや現実離れした設定になっている。
にもかかわらず、この特異な設定については作中でほとんど掘り下げられたり活かされることが無い(ヒロインの部屋にお呼ばれするイベントがあるぐらい)。
学校の寮にマッサージ機ってあるものなのだろうか…?

ラウンジでお風呂上がりの女子と鉢合わせしたり、ロデオマシンに乗る女子を眺めたり……。たしかにイベントとしては魅力的だが、TLS的なリアリティと噛み合っていないと感じた。

背景が残念

ヒロインの3Dモデルは十分綺麗に作られている(ただし2人が同時に画面に映るとやや処理落ちする)。
しかし背景のグラフィックはかなり前時代的なクオリティである。

もちろん背景よりヒロインにグラフィックのリソースを割くのは当然だが、「写真撮影」がコンセプトである以上、背景もヒロインと同レベルで重要な「被写体」であり、こだわりを見せてほしかったところだ。
えっ?どうせみんな女の子の太ももしか見てないって?

無意味な仮定だが、もし本作の背景が(例えば『Detroit: Become Human』並に)フォトリアルだったら、それだけでもヒロインは何倍にも魅力的に見えただろうし、写真撮影パートも何倍も楽しめただろう。


ヒロイン別感想

(順番は攻略順)

生野 クリスタ 香澄

北欧の血が入ったハーフの中学2年生。
性格は大人しく真面目で、内面的にはもっともクセが無いキャラ。
この上目遣いが…イイ…
あまり人付き合いが得意ではない子だが、カメラという共通の趣味を介して主人公と関わるようになる。
カメラについて嬉しそうに、頑張って話している姿は、思春期らしい自我形成の過程も見られて可愛らしい。

ただハーフ等の設定が深く掘り下げられることが無く、単に優等生なキャラで終わってしまっているのが物足りない。作品全体の描写不足がネックになっている。

優美菜

シリーズ伝統の「妹枠」。妹はヒロインとしては隠しキャラ扱いであることが多いが、今回は最初から攻略可能。時代は変わった……?

お兄ちゃんラブを公言してはばからないブラコン娘……だが、キミキスの菜々、アマガミの美也、フォトカノの果音と、よく考えればみんなお兄ちゃんっ子だった。
これでも歴代の妹キャラとしてはマトモな方(?)
最初からお兄ちゃんに対してグイグイ迫ってくる明るさが魅力的。
しかし主人公の反応が(照れ隠しもあって)煮えきらず、あまり面白い絡みになっていないのが残念。
『Summer Days』のるり姉と主人公のような、実の家族ならではの会話が見たかった。

篁 梨里愛

シリーズ伝統、学園のマドンナ的メインヒロイン枠。
このジト目が…イイ…
理事長の子で箱入り娘のお嬢様という設定。
なので一見優等生キャラかと思いきや、初対面からけっこうSっ気を見せてきたり、ところどころで年相応な言動がポロッとこぼれたりするのが面白い。

キミキス以降の「メインヒロインは王道に見せかけてちょっとひねっている」という路線は今作でも健在だったと言えるだろう。

仲座 ろみ

学園アイドル(って一般的な概念なのか?)「スクールドリーム10」の一番人気娘。
良い子ちゃんなヒロインが多い中、人間味を感じられる言動が多いのが新鮮
正直第一印象では興味を惹かれなかったのだが(失礼)、会話してみると意外とクレバーにアイドルとしての戦略を練っていたり、趣味が渋かったり(和菓子が好きとか)とギャップがあって攻略が楽しかった。

仲を深めることで印象がもっとも変わるヒロインだろう。シナリオも明らかに他のヒロインより気合が入った内容で、本作で最も独自性があるキャラかもしれない。

日向寺 南夏

シリーズ伝統、幼馴染枠兼水泳部枠。
このジト目が…
「~だな!」という男子っぽい口調が、声の演技と相まってとても魅力的。

しかし、セリフによって語尾が徹底されてなかったり、ハート型の髪留めがキャラにミスマッチだったり、胸の小ささを気にしている割に3Dモデルだと結構おっぱいがあるように見えたり……といろいろツメの甘さも感じてしまう。


姫乃樹 凛世

なんと小学5年生のヒロイン。
TLS3は中学校が舞台ということで物議を醸したが、その比では無い。『レコラヴ』にも出ていた人気キャラらしく、いわゆるスターシステムでの再登場。
この…
「しっかりした小学生」というキャラだが、所々に小学生らしい幼さも混じっており、いい塩梅だった。

ただし「恋愛シミュレーション」の趣旨からは離れるので、あくまでオマケの隠しキャラ的に楽しんだ。

恋愛シミュレーションは終わらない…?

ややネガティブな記述が多くなってしまったが、全体的に見れば良くも悪くも「いつものTLS」である。これまでシリーズにあまり触れていなかった人なら、新鮮にテンポよくプレイを楽しめるだろう。
逆に過去作、特に『フォトカノ』『レコラヴ』をプレイ済の人にとっては、目新しい要素が無くボリュームも減っているため、物足りなさやマンネリ感を覚えるかもしれない。

もっともこういった「マンネリ」を感じられるだけ幸せというべきかもしれない。
『フォトカノ』『レコラヴ』の開発会社がすでに消滅していることを考えると、本作は発売されただけでも結構な奇跡である。
だが出来を見ると「TLSはこれからも安泰!」とは言い難い……。

現状、家庭用ハードで発売される恋愛シミュレーションはかなり少ない。
ビジュアルノベル形式の「(エロゲーを全年齢にしてコンソール移植した)ギャルゲー」なら(一応)あるが、やはり自分はストーリーを傍観するだけのノベルゲームではなく、自分が主人公になった気分で疑似恋愛が楽しめる「恋愛シミュレーション」がやりたいのだ。

最近では、RPGなど他のジャンルに恋愛シミュレーション要素が内包されている作品も少なくない。
また「お気に入りの子に(課金して)愛を注ぐ」というユーザーの欲求は、ソーシャルゲームが受け皿になっているのではとも思っている。
それらも悪くないのだが、やはり「恋愛」をメインにしたゲームも、できれば無くなってほしくないと思っている。

これから恋愛シミュレーションというジャンルはどうなるのか?
消えてしまうのか、形を変えて生き続けるのか。もしかすると『LoveR』は既存の恋愛シミュレーションとしては「最後」の作品になるかも……そう思いながらのプレイだった。