『トライアングルストラテジー』を初週クリアした。
SRPGとして見ると戦闘中のリトライがやや不便な点が気になったものの、全体としては期待以上にとても楽しめた作品だった。「選択肢」に正面から向き合ったゲームだと感じた。
(以下、ストーリーのネタバレを含む感想)
王子を差し出せるRPG
『トライアングルストラテジー』は、ゲームとしては『タクティクスオウガ』『ファイナルファンタジータクティクス』シリーズの流れを汲むオーソドックスなクォータービューのシミュレーションRPGだが、やはりその肝は選択肢によって分岐するストーリー展開にある。
物語の節々で、グリンブルグ王国ウォルホート領の若き領主であるセレノア=プレイヤーは様々な選択を迫られる。使節としてどの国を訪問するかといった気楽なものから、犯罪の片棒を担ぐかどうか、少数民族を国外追放するかどうかといった重大なものまで種類は様々であり、その多くはどちらを選んでも痛みを伴う苦しい決断となる。
セレノアを含めた8人の主要人物が「運命の天秤」を前に行う多数決によってウォルホート家の選択は変わり、それによってストーリーも分岐していく。名実共にこのゲームの主人公は「選択肢」なのだ。
この選択肢がいずれも絶妙な塩梅で、非常に繊細に作られていると感じた。例えば序盤の山である、エスフロストに対してロラン王子を差し出すか否かを決める選択肢を見てもよく分かる。
物語の序盤で、セレノアたちの暮らすグリンブルグ王国にエスフロスト公国が突如として侵攻し、グリンブルグ王レグナと第一王子フラニは討たれてしまう。
第二王子であるロランをセレノアはなんとか匿うものの、エスフロストからはロラン王子を差し出すように要求される。この要求を飲むか、それとも断り徹底抗戦するかが最初の大きな分岐点となる。
普通のゲームなら、ほとんどの場合ロラン王子を差し出さないストーリー展開になるだろう。主人公の親友であり王子でもある仲間をむざむざ敵に引き渡すなど、明らかに正義にもとる選択である。
ゲームのプレイヤーは一般的に、ヒロイックな体験を求めている。ゆえに、一般的なRPGの主人公はみな正義漢であり、真っ直ぐであり、理想論を貫き通した結果世界を救う英雄なのである。
しかし本作では、侵略してきた大国の要求に折れ、王子を差し出すという選択を取ることができる。できてしまうのだ。
確かに、たとえ勝ち目が薄くとも正義の名の下に抗戦するのが「正しい」選択肢だろう。しかし、現実的に考えるとどうだろうか?
強大な軍事力を誇るエスフロスト軍に、自分たちだけで抵抗して勝機はあるのだろうか? むざむざ死を選ぶようなものではないか? 平和を守るためには、早々と降伏して被害を最小限に抑えるのが領主の勤めなのではないか。そう考えるプレイヤーもいるだろう。
そう、『トライアングルストラテジー』はそう考えることが認められているゲームなのである。
ストーリーの都合で「正義」を押し付けられることはない。逆に、露悪的な展開を眺めさせられることもない。どんな道も選択肢として開かれている。選ぶかどうかは「信念の天秤」の結果次第だ。この姿勢がとても寛容だと感じた。
面白いのは、ロラン王子自身が投降を肯定している点だ。投票前のディスカッションでは、「敵もロラン王子を利用したいはずなので、すぐには殺されないはず」「むしろ今は投降した方が安全かも」といった観点も示される。このあたりがとても丁寧に調整されていると感じた。
本作のキャラクターは、味方も敵もみなとても賢い。合理的に現実を分析し、痛みを伴う決断を下す覚悟がある。
初めは、みなゲームのキャラクターとしてはいささか真面目過ぎて面白みに欠けると思ったが、クリアしてから振り返るとこれはこれで悪くないと感じている。本作の主役は「(プレイヤーの)選択」であり、キャラクターはあくまで舞台装置なのだ。
一般的なRPGのストーリーに、どこかしら息苦しさや押しつけがましさを感じてしまう人にこそプレイしてもらいたい作品だ。
初回プレイ時の選択とその理由
参考までに、自分が初めてプレイした時に選んだ選択肢と理由は以下の通り。
3章:ハイサンドを訪れる
この時点ではどちらの国を選ぶ積極的な理由もないので、最初はフレデリカの故郷であるエスフロストを訪れるのが自然かと思った。しかしフレデリカがまたエリカやタラースにいびられたらかわいそうだと思い、消去法でエスフロストへ。
しかしこの選択によってエスフロストと深く関わる展開になったため、意外にも大きな影響があったのだと後で気がついた。選択肢によってストーリー(特に初週)の印象が少なからず変わるのも本作の面白いところだ。
5章:エスフロストにロランを差し出す
上でも書いたように、現実的に考えるとエスフロストの軍隊とやりあうのは無謀にしか思えなかったため、ロラン王子に犠牲になってもらった。『トライアングルストラテジー』という作品を象徴する選択肢だろう。
8章:エスフロストの助力を受けソルスレイと戦う
ソルスレイと手を手を組むのは流石にリスクが大きすぎると判断した。上手く取り込めたとしても、利用されて切り捨てられるのがオチだろう。
エスフロストからすればウォルホートは大事な手駒であり、捨ておけない理由はある。エスフロストに付くほうが賢明だ。
9章:塩の不正を告発する
心情としてはハイサンドよりもエスフロスト寄りなので、ソルスレイには反抗することに。
11章:ハイサンドからローゼル族を守る
中盤の山場。こちらはローゼル族を守る選択を取った。
一見ロランの時の選択と矛盾するようだが、やはり自ら犠牲になることを承諾していたロランと、抵抗するローゼル族を同列に扱うことはできなかった。このあたり、人によって選択が変わるであろう点が興味深い。
13章:エルフリックで大橋を落とす
最も穏健と思われるフレデリカの案を採用。全体的に「無難で現実味があるかどうか」を重視して選択肢を選んでいる節がある。
15章:ベネディクトと共にウォルホート領に戻る
本当はロランと共に貴族の腐敗を調査したかったのだが、説得に失敗してベネディクトに付いていくことになってしまった。
単に選択肢でルートが分岐するのではなく、他のキャラクターを説得して投票させなければならないという本作のシステムならではの展開だろう。
とは言え、自分の意に反した道を進まなければならないのは至ってリアルであり、これはこれで良かったと思う。
ちなみにこのルートの戦闘ではセレノアの父シモンが撃破されるとゲームオーバーになってしまうのだが、シモンは勝手に敵に突っ込んで勝手にやられてしまうため、守るのが非常に大変。「切札」で無理矢理後ろに下げたり、氷壁で行く手を阻んだりと四苦八苦させられた。本作最強の敵は父シモンである。
17章:ベネディクトの策に賛同し、エスフロストと共にハイサンドと戦う
やはりベネディクトの案が最も現実的だと感じた。フレデリカの案は、実現可能性はさておきウォルホートの領民やグリンブルグの国民はどうするのだろうという点が気にかかった。ハイサンドと対立する選択を取ってきたこともあり、ロランの案も突飛過ぎるように感じた。
しかし、ハイサンド寄りのルートを通ってきたプレイヤーならロランの主張はもっと現実的に聞こえるかもしれない。辿ってきたルートによって、各国の印象と最後の選択肢の判断は変わってくるだろう。それが面白い。
エピローグも印象的だ。生活の困窮から強盗殺人に手を染めたローゼル族の男に対し、セレノアは同情を示しながらも「法に従って極刑に処せ」と命じる。
まっとうだが、厳しい判断だ。しかし、フレデリカもローゼル族の現状に心を痛めながら、その判断に強く反対はしない。この描き方が見事だった。
普通のRPGであれば、エピローグで主人公にこんな後味の悪いセリフは言わせないだろう。だが、このルートを辿ってきたプレイヤーはセレノアの言葉を――どう感じるにせよ――受け入れていることに気づくだろう(受け入れられないプレイヤーは、最後の選択肢でフレデリカやロランに付くだろうから)。
「選択」を積み重ねることでプレイヤーがセレノアと同化し、エピローグのこのセリフによってセレノアがプレイヤーから離れる――そんな不思議な余韻が残るエンディングだった。