『超探偵事件簿 レインコード』をクリアした。
『レインコード』は小高和剛氏を始めとした『ダンガンロンパ』シリーズのスタッフによる新作推理アドベンチャーだ。
「実質ダンガンロンパ新作」ということで注目度も高く、自分も『ダンガンロンパ』は好きなシリーズ(あの『V3』ですら、なんだかんだで面白いゲームだとポジティブに捉えている)なのでかなり期待してプレイしたのだが、その感想はと言うと……。
※以下、『レインコード』と『ダンガンロンパ』シリーズのストーリー上の大きなネタバレは含みませんが、一部小さなネタバレとスクリーンショットは含みます。
優等生な推理ADVだが…
結論から言うと、『レインコード』は悪くはない。図々しくも採点していいなら、推理アドベンチャー(ADV)ゲームとしては間違いなく及第点以上の出来だ。
事件の謎や手がかりはわかりやすく提示され、順を追って推理を誘導してくれるので、この手のゲームに慣れていない人でもスムーズにクリアまで進めるだろう。
序盤から中盤は事件の謎解きを楽しみつつ、終盤はより大きな謎に迫るダイナミックな展開となり、ラストではすべての謎が解き明かされてすっきりエンディングを迎えられる。こう書くと、及第点どころか推理ADVとしてはむしろかなり優等生な作品と言えるだろう。
そう、『レインコード』は推理ADVとして大きな問題はない。そして、それこそが問題なのだ。どういうことか?
つまり、これはあくまで『レインコード』を「普通の推理ADV」として見た場合の評価だ。確かに『レインコード』は無難な作品だ。しかし自分が求めていたのは『ダンガンロンパ』のような「普通ではないゲーム」なのである。
『ダンガンロンパ』のアクの強さはどこへ?
『レインコード』をプレイしている間、ずっと「『ダンガンロンパ』に比べると刺激が足りないな…」という物足りなさを感じていた。例えるなら、ギトギト濃厚豚骨ラーメンが食べたいのに、薄味のにゅうめんを出されているような期待外れ感があった。
もちろんにゅうめんもあっさりしていて美味しいのだが、自分はあの健康に悪そうなドロドロギトギトのラーメンこと『ダンガンロンパ』がまた味わいたくて『レインコード』を買ったクチである。しかし残念ながら、その希望は十分には叶えられなかった。
なぜ『レインコード』には『ダンガンロンパ』のようなギトギト感が足りないのか? 理由は大きく分けて2つある。
一つは、単純にキャラクターのアクが弱いことだ。
『ダンガンロンパ』のあの濃厚で独特な雰囲気は、ひとえにブッ飛んだ個性的なキャラクターから醸し出されている。
キャラの属性を何十時間も寸胴鍋でコトコト煮込んで精製したキャラクター。サイコでクールなキャラクター同士の予想もつかないような掛け合い、それこそが『ダンガンロンパ』の味の秘訣なのだ。
『レインコード』のキャラも決して無個性ではないし魅力がないわけではない。しかし『ダンガンロンパ』と比べるとどうしても薄味に感じてしまう。
単純にセリフ数自体が少ない(後述するように「ノンストップ議論」が存在しないのもその一因だろう)からかもしれないし、意図的にライトに仕上げたのかもしれない。
いずれにしても、もしキャラクターのアクの強さを数値化したとしたら、『レインコード』の主要キャラすべてを足し算しても『ダンガンロンパV3』の入間美兎一人に及ばないだろう。
マスコット兼相棒である「死に神ちゃん」も、モノクマに比べるとずっとマトモだ(そうでないと困るのだが)。
(唯一、フブキの度を越した世間知らずっぷりは『ダンガンロンパ』でも通用するように感じた。)
もちろん、アクが弱いのは悪いことではない。もしこの世のゲームの登場人物がすべて入間美兎になったら、それはそれで胸焼けして倒れてしまうだろう。
しかし自分が『レインコード』に求めていたのは、まさにそうした胸焼けして気持ち悪くなるほど濃厚なスープを飲みたいという欲求なのだった。
一方で『ダンガンロンパ』のあのノリがキツい、キャラ同士の本筋と無関係なやり取りや日常パートがノイズだった人にとっては、『レインコード』はずっとプレイしやすい作品になっているだろう。何かを得るには何かを捨てる必要があるのだ。
知らない人が知らない人を殺す話
『レインコード』が物足りない一つの理由は、「学級裁判がないこと」だ。
知っての通り『ダンガンロンパ』は、「閉鎖空間に閉じ込められた高校生たちがお互いを殺し合う」というデスゲーム要素と、「学級裁判で犯人を突き止める」という法廷要素のハイブリッドが核になっている。
デスゲームも法廷ゲームも『ダンガンロンパ』が発明した第一人者というわけではないが、両者を掛け合わせることで唯一無二の化学変化を起こすことに成功した。
『レインコード』をプレイすると、『ダンガンロンパ』の設定がいかに推理ADVとして優れていたかを逆説的に感じられてならない。
具体的には、「事件の被害者・容疑者・犯人がすべてクラスメイトである」という設定がプレイヤーを惹き付ける極めて強力な前提になっているのだ。
この設定のおかげで、プレイヤーはどんな事件であっても物語に惹き込まれる。
閉鎖空間で共に日常を過ごした仲間だからこそ、誰がやられてもショックで悲しいし、誰が犯人であるとも信じたくない。しかし生き残るためには仲間を疑い、学級裁判で犯人を告発しなければならないというジレンマが生まれる。『ダンガンロンパ』で起こる事件は「他人事」ではないのだ。
一方で『レインコード』の場合はそうではない。
ややネタバレになるが、例えば『レインコード』1章の事件は、被害者も容疑者も主人公=プレイヤーにとっては初対面である。ゆえにほとんど興味も持てないし感情移入もできない。「他人事」なのだ。
なので、謎を解かなければならない、先に進みたいというモチベーションが『ダンガンロンパ』に比べてずっと薄い。
もっともこれは『レインコード』が悪いわけではない。世に数多あるミステリーものは概ね『レインコード』と同じシステムであり、それでも作品として成立している。
なので、むしろダンガンロンパのフォーマットが反則的に優れているというべきなのだ。
『ダンガンロンパ』に慣れ、『ダンガンロンパ』を期待してしまったプレイヤーにとって『レインコード』はあまりにも普通すぎた。悪くはないが、刺激がない。
不思議で退屈な謎迷宮
学級裁判の代わりに『レインコード』の核となっている目玉システムが「謎迷宮」である。
「謎」を可視化し、推理のプロセスを視覚的かつ派手に描写できるシステムであり、とかく地味になりがちな推理パートをなんとか目新しく退屈させないようにしたい、という作り手の意図は伝わってくる。
もっとも試み自体は意欲的で面白いのだが、残念ながら結果的には成功したとは言い難い出来に終わってしまっている。
謎迷宮は死に神ちゃんの不思議な力によって謎が具現化された世界である。
何が起こっても不思議ではなく、ゆえに謎迷宮の演出はバリエーション豊かである。トロッコに乗って2択の推理を考えたり、巨大な怪人姿となった犯人を斬りつけたりといったアクションは、一見視覚的には刺激的に見える。
が、残念ながら「なんでもあり」な世界は最初こそ目新しいがすぐに刺激に慣れて飽きてしまう。
謎迷宮で何が起ころうが、それは現実の物理法則や因果関係とは無関係である。つまり、真面目に取り合う必要がないとすぐに気づいてしまうのだ。
謎迷宮で何が起ころうとそれはあくまで演出であり、現実の出来事ではないので緊張感がないのだ。
全員が文字通り命を賭けて議論するがゆえに緊張感が張り詰める学級裁判とは対称的である。
謎迷宮で敵として登場する「謎怪人」も同じだ。謎怪人はあくまで本人ではなく概念的な存在なので、矛盾を指摘してやり込めても手応えがなく盛り上がらない。
これらはすべて謎迷宮という場所を、「死に神の不思議な力」という万能設定で強引に押し通した代償である。
死に神の力がフワッとしているので、謎迷宮もフワッとした場所にしかならず、必然的にプレイヤーがそこで受ける印象もすべてフワッしたものにしかならない。
プレイヤーを退屈させないように趣向を凝らした謎迷宮の演出が、結果的にプレイヤーを退屈させる一番の要因になってしまっているのはなんとも皮肉である。
推理ADVの捜査パートはなぜ必ずつまらないのか
その他、推理ADVとしてのゲーム部分に特に進化や工夫が見られないのも残念だった。
捜査パートは命じられた場所に移動して会話を聞くだけの完全な作業であり、まったくゲーム性がない。
このあたりは『ダンガンロンパ』を始め、あらゆるアドベンチャー系ゲームに共通する構造的な問題なので仕方ないとも言えるが、本作はマップが3D化されたことでより作業感が増している。
特に謎迷宮では、「会話をすべて聞くまで通路がループして先に進めない」という奇妙な仕様がある。
先に進めないのなら、そもそもスティックを倒して移動する必要はない。これはつまり、「操作している風」に見せかけるだけの完全に無意味な演出であり、プレイヤーを馬鹿にしているとすら感じる。
謎「迷宮」とは名ばかりでゲーム的には「一本道」を歩いていくだけ、そもそも歩く必要すらないと思うと、はたしてコントローラーを握っている必要はあるのかと虚しくなってしまう。
QTEにも辟易とした。令和のゲームなのだから、とっくにカビの生えたつまらないシステムからはそろそろ脱却してもらいたい。
おわりに:そして水たまりが残った
以上のように、残念ながら『レインコード』では『ダンガンロンパ』ほどの驚きや興奮を味わうことはできなかった。
しかし文句ばかり言っておいてなんだが、決して悪い作品ではない。積極的に他人に勧めるほどではないが、興味があるという人がいたらやめとけとは言わない、それぐらいの温度感だ。
その意味では、圧倒的な賛否両論を巻き起こした『ダンガンロンパV3』とは真逆とも言えるだろう。
いずれにしても、もし続編が出るとしたらなんだかんだで発売日に買ってしまうだろう。その時は謎迷宮を始め、様々な点がブラッシュアップされていることを願う。