※この記事は2020年8月時点のスタンダード(ラヴニカのギルド~基本セット2021、《荒野の再生》他禁止後)の環境に基づきます。
以前にMTGAについて書いた記事はや3ヶ月。
この間、「イコリア:巨獣の棲処」の発売、《創案の火》と《裏切りの工作員》の禁止、「相棒」システムのナーフ、「基本セット2021」の発売、《荒野の再生》《時を解す者、テフェリー》《成長のらせん》《大釜の使い魔》の大規模禁止指定など環境は激変していたわけだが、自分は全然MTGAを遊べていなかった。MTGAのクライアントが重すぎてプレイが困難だったからだ。
このゲームが重たいのは前からだが、「イコリア:巨獣の棲処」のリリースに伴うアップデートで更に挙動が苦しくなり、《厚かましい借り手》や《光明の繁殖蛾》を唱えてクリーチャーが登場する3D演出だけで落ちるようになってしまった。神話レアを唱えるたびにクラッシュしていてはゲームにならない。
しかしこの7月、「基本セット2021」の追加に伴うアップデートでクライアントが64ビットOS対応になり、このおかげかどうかは知らないがM21以降はまったくソフトが落ちなくなった。ということで久々にMTGAに戻ってくることができたのである。
以前使っていたのは緑単だったが、気分を変えて新しいデッキを探してみた結果、公式サイトのデイリー・デッキで紹介されていたイゼット果敢が魅力的だったので、これを自分なりにチューンナップしたイゼット・スペルを作ることにした。ランクマッチ・BO1で使ってプラチナランクTier2ぐらいまでは行けたので、ここで紹介したい。
デッキリスト
コンセプト・戦い方
クリーチャー以外の呪文(以後、便宜的に「スペル」と呼ぶ)を唱えることで強化される《スプライトのドラゴン》や果敢持ちクリーチャーを揃え、軽量スペルを連発して強化し、素早く殴り勝つデッキ。アーキタイプとしてはビート・コントロール(クロック・パーミッション)に相当する。
クリーチャーはすべて飛行持ちなので、地上戦力を無視して安定してクロックを刻むことが可能。特にBO1では飛行対策は切っているデッキも多いので、相手次第ではイージーウィンを狙える。
果敢クリーチャーは見た目以上に火力があり、上手くスペルを連発できれば1ターンで10点以上のダメージを叩き出すのも難しくない。相手からすると、軽量スペルで思わぬ火力が上乗せされるため奇襲性が高いのも利点。
小型クリーチャーに対しては《ショック》などの軽量火力、大型クリーチャーに対してはバウンスによる遅延が有効であり、ボードコントロール能力もなかなか高い。相手の大振りな呪文を《高尚な否定》で消しながら、継続して飛行で殴り続け、1ターンでも早い決着を目指す。
クリーチャー
《スプライトのドラゴン》
このデッキのエース。果敢のP/T上昇はターン終了時で切れるが、《スプライトのドラゴン》は恒久的に強化されるので、ダメージソースとしての性能はピカイチ。出してスペルを唱えていくだけで勝手に育っていく。
速攻持ちなのも偉い。マナがあれば、出したターンに一気に育てて強襲をかけることができる。
それゆえ相手からは最優先で除去の的になるため、素直に2ターン目に出すのは得策ではないことも多い。できれば《高尚な否定》を構えられる4ターン目以降に出したい。
《嵐翼の精体》
このデッキの重鎮。
本来のコストは5マナだが、ターン内にスペルを唱えていれば実質2マナで出せる。3ターン目に1マナスペルから繋げるのが理想。
3/3飛行に果敢という優秀なスタッツに加え、ETBで占術2も持つので場に出ただけである程度仕事が可能。クロックを確保しつつその後のドローも整えることができる。決して超パワーカードというわけではないが、表と裏でデッキを支える重要カードである。
そもそもイゼット・スペルを組もうと思ったのは、 この《嵐翼の精体》に一目惚れしたからだ。幻想的でクールなイラストと、地味ながらいぶし銀な性能が素晴らしい。
《謎変化》
このデッキのオブジェ。
2マナエンチャントだが、スペルを唱えるとターンの間3/3飛行のクリーチャーへ変化。
果敢持ちではなくP/Tが強化されるわけではないが、同じくスペルを唱えることでクロックを確保できるカード。2マナ3/3飛行は十分な高性能であり、このデッキにおいて2ターン目に最も唱えたいカードである。
ターン終了時にクリーチャーで無くなってしまうのは、ブロックに回りにくいため一見デメリットだが、実はソーサリータイミングでの除去を回避できるというかなり大きなメリットでもある。多くの全体除去はソーサリーかプレインズウォーカーなので、これに引っかからずクロックを継続できるのは見た目以上に優秀。
またクリーチャー枠でありながら自身がエンチャントなので、他の味方の果敢条件を満たせるというのも大きい。
このデッキではクリーチャーとスペルの割合がシビアで、クリーチャーばかりだとスペルで強化できないが、スペルばかりだとクロックの頭数が足りなくなる。だが《謎変化》ならどちらの枠としても計算できるのである。
ただしエンチャントなので、《嵐翼の精体》のコスト軽減を満たせない点には要注意。
《厚かましい借り手》
言わずとしれた便利屋。
《些細な盗み》のバウンスは、相手クリーチャーをどかして攻撃を通す矛としてだけでなく、相手の攻撃を遅延させる盾にもなり、更に果敢を誘発させて味方を強化する薬にもなる!
設置されてしまったエンチャントやアーティファクトに触る貴重な手段でもある。
当事者として使えば、貴重な3点クロックに。《高尚な否定》を構えつつ、隙を見て場に出すことでゲームエンドが近づく。青のダブルシンボルである点には注意したい。
《砕骨の巨人》
こちらも多くのデッキで使われている、優秀な出来事カード。
しかしこのデッキにおいては、主に《踏みつけ》を5枚目以降の《ショック》として使うために採用している。
ライフレースを重視したこのデッキにおいて、画面への2点火力は2マナ払ってでも撃ちたいのである。
もちろんその後当事者として唱えることもできるが、このデッキのクリーチャーでは唯一飛行を持たないため、クロックとしては期待できない。地上ブロッカーとしては優秀だが、このデッキで守りに入る展開自体があまり好ましくない。
スペル
《選択》
占術1と1ドロー。
1マナで手札を減らさずに果敢を発動できるだけでなく、必要なカードも探せる。このデッキに最適なスペル。
《突破》
ターン中、味方にトランプル付与と1ドロー。
トランプル&飛行は回避能力が被ってしまうので、そこまで相性は良くない。もっぱら1マナキャントリップ枠としての採用である。
現スタンダードで青赤の1マナキャントリップは《選択》と《突破》のみであり、選択の余地がない。より適したカードが登場することに期待したい。
《ショック》
シンプルゆえに強力な小型火力。
相手の顔面に撃ちながら果敢を発動させ、あっという間に勝負を決めてしまうのが理想だが、厄介な小型クリーチャーの除去としても使える。
《高尚な否定》
2マナカウンター。通常だと1マナを支払うことで無効化されてしまうが、飛行をコントロールしていれば4マナを要求できる。
このデッキのクリーチャーはほぼ飛行なので、比較的信頼性の高いカウンターとなる。
マナが余る終盤には追加支払いを許してしまうが、このデッキの場合終盤まで勝負を決められていない時点でいずれにせよ敗北濃厚なので、さほどのデメリットではない(?)。
《非実体化》
2マナでクリーチャーか呪文をバウンス。
バウンスするだけなのでアド損にはなるが、このデッキは可能な限り素早く20点ライフを削り切るのが大切なので、1ターン動きを遅らせることができるのは大きい。
単なるカウンターとしてだけでなく、バウンス呪文としても使えるのが地味に重要。
カウンターは主に相手ターンの動きに対応して使うことが多いため、せっかくの果敢の強化が無駄になりやすい。また自ターンに「あと果敢を1回発動できれば削りきれるのに……」という状況であっても、相手が呪文を唱えてくれなければカウンターは使えないので、《謎変化》が石像のままになりがち。
しかし《非実体化》なら能動的にバウンス呪文として使えるので、果敢との相性が良い。更に最終手段として、自分のクリーチャーや呪文をバウンスすることで果敢回数を稼ぐという禁断の?使い方もある。
《炎の一掃》
個人的に現スタンダードで最高性能の全体除去。
全体除去・全体火力は敵味方の区別なくダメージを与えるものが多いが、《炎の一掃》は自軍の飛行クリーチャーにはノーダメージ。
また全体除去は基本4マナソーサリーだが、これは3マナインスタント。なぜアンコモンなのかが不思議なほどの強さだと思っている。
2点火力はやや弱火に思えるが、小型クリーチャーを横並びにするデッキ(赤単/ルールス系・ウィノータ系デッキ等)を吹き飛ばすには十分。BO1はアグロデッキが多いため、《炎の一掃》を一発撃ち込むだけで即降参してくれることも多い。
無論、ランプやコントロール相手には腐りやすいリスクはあるが、それを考慮してもメインから3枚投入したくなる性能である。
プレイングTips
- マリガンは、土地ではなくカードパワーを基準にしたい。
- BO1の初手補正により、土地21枚なので初手は土地2枚の可能性が最も高い。土地2~4なら問題なくキープで良い。土地1枚でも、1ターン目の占術手段(《天啓の神殿》か《選択》)があるならキープしたい。
- このデッキは土地2枚あればなんとか戦えるのでマナスクリューはかなりしづらい反面、マナフラッドしてスペルが唱えられないとまず負ける。占術手段は多いため、少なめの土地でもキープする勇気が欲しい。
- 土地は3ターン目までスムーズに伸び、4枚目の土地もできるだけ早く欲しいが、5枚目以降はまったく引かないのが理想である。
- 4マナあれば2マナの《スプライトのドラゴン》や《謎変化》を唱えながら《高尚な否定》《非実体化》《些細な盗み》といった妨害カードを構えられる。
- 5マナ目以降は使い道があまりない。4枚土地があるなら、占術で土地は基本ボトム送りになるだろう。
- 初手のカードパワーは重要である。具体的には《スプライトのドラゴン》《謎変化》《嵐翼の精体》のどれも無い場合は、基本的にマリガンすべきである。
- クリーチャーとスペルのバランスが重要なのはもちろんだが、クリーチャーが《厚かましい借り手》か《砕骨の巨人》だけだと動きが弱すぎてまず勝てない。
- 横並びのウィニー相手は《炎の一掃》を当てれば勝てる。飛行で地上戦も拒否できるので、一般的なアグロ相手には概ね有利に戦える。
- 特にアリーナBO1で親の顔より見る赤単にはかなり強い。飛行の攻撃を止められることはほぼなく、小型は《ショック》で除去、《エンバレスの宝剣》《鍛冶で鍛えられしアナックス》といったパワーカードはバウンスで対処できる。
- 対して1対1交換を重視するコントロール色の強いデッキにはかなり不利。
- 除去やハンデスで1対1交換を繰り返されると、お互いにカードが減っていくので、高コストで強いカードを叩きつけたほうが勝つ。しかしこのデッキには「1枚で強い」パワーカードやアド源が存在しないので、消耗戦・長期戦になるとまず負ける。
- ランプに対しては五分~やや不利。
- 素早くクロックを展開し、相手のパワーカードをカウンターできれば勝機はあるが、間に合わずにカードパワーの差で逆転されることが多い。
自分が下手なだけかもしれない。
採用しなかったカード
《立腹》《サムトの疾走》などのP/T強化スペル
こういったスタッツ強化や速攻付与スペルはクロック強化に有用であり、デッキ全体の爆発力が更に上がる。
しかしリスクもあるため、このデッキは採用していない。
リスクというのは、例えば3ターン目に自分の場に《謎変化》しか土地以外のパーマネントが存在しないようなシチュエーションである。
この場合、もし《突破》を唱えれば《謎変化》がクリーチャー化し、さらに《嵐翼の精体》に繋げられる。しかし《サムトの疾走》のような自軍クリーチャーを対象とするスペルの場合は、クリーチャーがいなければそもそも唱えることができず、《謎変化》との相性が悪いのである。
《急進思想》《翼ある言葉》などのドロースペル
ドロースペルは、どんな場面でも手札を減らさずに果敢を発動させられる。火力補強と汎用性を併せ持った選択肢であり、悪くない。
入れるとすれば《非実体化》や《高尚な否定》との入れ替えになるだろう。
カウンターカードとどちらが良いかは好みの問題な気もするが、BO1の場合は負け筋を消すよりも勝ち筋を通す方が強いことが多いので、ドロースペルはもっと増やしてもいいかもしれない。
《心火の供犠者》
デイリー・デッキのリストでは採用されていたが、このデッキでは入れていない。
理由としては、果敢持ちではあるが回避能力がなく攻撃が通しづらい点と、自身を生贄に捧げて火力を飛ばす効果が特に他のカードとシナジーがない点。
しかしボードアドバンテージを重視するデッキ構成にするなら、十分採用の余地はあるだろう。
《戦慄衆の秘儀術師》
攻撃するごとに、自分のパワー以下のスペルを墓地から唱えられる強力な効果を持つ。
カードアドバンテージに直結する効果であり、この手の赤青の軽量スペルを連打するデッキでは採用されていることが多い。このデッキで非採用なのは、レアWCを使うのがイヤというのもあるが、「ハマれば強いが妨害されやすい」カードがあまり好きではないという個人的な好みが強い。これを採用するなら《サムトの疾走》や《立腹》などのパワー強化スペルも入れるべきだろう。
《常智のリエール》《弾けるドレイク》
墓地のソーサリー/インスタントの数だけパワーが強化されるクリーチャー。
条件を満たせば1枚でなかなか強いパワーカードだが、「1枚ドローして1枚手札から捨てる」系のカードを多く採用したデッキの方が上手く使えるだろう。
《寓話の小道》
現スタンダードでは定番のフェッチランドだが、このデッキとは相性が悪い。
まず、《寓話の小道》は3枚目までの土地として出した場合は「タップインの島or山」であり、これなら単なる島・山の方がずっと良い。
前述の通りこのデッキは土地は4枚でよく5枚目以降は要らない。とすると、このカードが有効に使える範囲は非常に狭い。
またこのデッキは1マナのスペルを連打する都合上、見た目よりも色拘束が強い。
手札によって青マナと赤マナのどちらが必要になるかは常に変わるため、2色土地はとても便利だが、島か山かを持ってくるだけのフェッチランドは意外と使いづらいのだ。
おわりに
このデッキには、不利な状況からでも叩きつければ逆転が狙えるという「1枚で強いカード」は存在しない。1枚ずつ見ればパワーが低いカードばかりだが、上手く組み合わせることで力を発揮する、カードゲームの醍醐味を味わえるデッキと言えるだろう。
占術の判断やインスタントの発動タイミングなど、プレイングの幅が広く、使っていてとても楽しいデッキである。 主要カードのほとんどが9月のローテーションで落ちないので、新カードによって更に強化されるのが楽しみだ。