2020/03/28

ファイアーエムブレム風花雪月 システム考察―計略・武器耐久について

このブログでもずっとプレイ日記を書いてきた『風花雪月』だが、DLCもクリアしたので、これまでの記事で触れられなかったシステム面全般を語りたい。

計略―「単騎無双」を防ぐ新たな試み

やや大味なバランス

計略は『風花雪月』の新システムの中でも最も重要な試みだろう。
自ターンにコマンドで仕掛けることができ、「騎士団」という(実質)装備品と、自身の「魅力」パラメーターによって効果や威力が変わる。

主に攻撃系の計略と補助系の計略があり、いずれも強力だが、特に重要なのは攻撃系の計略。
これまでのFE(本編)ではなかった範囲攻撃による多人数への一斉攻撃が可能であり、特筆すべきはヒットすれば次のターン相手は動けなくなるというバインド効果がある点。

戦略SLGにおいて「移動不可」は極めて強力な状態異常であり、1手で大量の敵を実質1ターン無力化できるため、高難易度マップ攻略では必須級の要素となっている。

それゆえ計略のバランス面はいささか大味である。計略が命中するかどうかで命運が決まってしまうようなシチュエーションに陥りやすいのだ。
難易度や育成にもよるが、「魅力」値が低いユニットは計略の命中率が計算に入れられないほど低く、魅力が高いユニットでも命中は100%までは高められないことが多い。

FEで命中率80~90%の攻撃を外すのは日常茶飯事であるが、計略は命中いかんで次のターンの展開がまったく変わってくるので、いささか運要素を高めすぎていると感じる。(1マップごとに使用回数制限があるのに、外れた場合も回数を消費するのがそれを助長している。)

運要素をどれぐらい許容するかは人によるだろうが、個人的には攻撃系計略はもっとパワーを下げる代わりに必中の方が良かったのではと感じる。

しかし計略が初の試みである以上、バランス面の問題が生まれるのは致し方ない。
ポイントは、計略というシステムを導入した理由である。
端的に言えば、これは「単騎無双」の防止であると考えられる。


「単騎無双」防止としての計略

「単騎無双」とは、「自軍で一番強いエースユニットを敵陣に突っ込ませ、反撃で敵を次々と倒す」という戦略(と呼ぶほどのものでもないが)である。

FEは敵に攻撃されたときに自動で「反撃」するシステムなので、耐久力と火力を兼ね備えた強いユニットであれば、敵フェイズの反撃で大量の敵を撃破できてしまうのである。

無論、こういった「単騎無双」は「様々な特徴を持つ一長一短なユニットを適材適所で運用し、力を合わせてマップを攻略する」という戦略シミュレーションの醍醐味と相反している。
しかしFEは「敵を撃破しないと経験値が得られない」「弱いユニットを育てる手段が限られている」という都合から、
  1. 弱いユニットは前に出しづらい
  2. 強いユニットが前に出る
  3. 強いので反撃で敵を倒してしまう
  4. 強いユニットが経験値を独り占めして、更に強くなる
  5. 更に強いユニットと弱いユニットの差が広がり、弱いユニットを前に出せなくなる
といった「エースだけ飛び抜けて強くなる」スパイラルに非常に陥りやすい。
これは戦略性と成長要素という本来相容れない2つの要素を併せ持ったシミュレーションRPGというジャンル自体の構造的な問題であり、FEシリーズ長年の問題であった。

ゆえに、これまでのFEでもこの「単騎無双」を防止するための工夫は試されてきた。

例えば『トラキア776』では、ユニットが戦闘を重ねると「疲労」という値が溜まり、これが一定数を超えると次のマップには出撃できなくなってしまうため、少数のユニットに戦闘を集中させるリスクが生まれている。


このシステムは『Echoes』のダンジョン内戦闘でも再使用され、更には『風花雪月』の騎士団が被ダメージによって「壊滅」するシステムにも繋がっている。

また『if』では敵がデバフ効果のある武器を使ったり、「○○の一撃」という「攻撃時に能力が上がる」スキルを出すことで、「強いユニットでもデバフを掛けられて一斉攻撃されるとやられてしまう」という攻撃側有利のバランスに調整されていた。

計略も、こういった「単騎無双」を防止するシステムの流れを組んでいる。
まず計略は反撃不可なので、そもそも「反撃で敵を倒す」こと自体ができない
またヒットするとデバフが掛かり、更に次のターンに移動不可となるため、孤立した状態で計略を受けるリスクが非常に高くなるのである。

このように、計略システムはいささか荒削りではあるものの、基本的には「単騎無双」を防止し戦略SLGとしての醍醐味を維持しようとする積極的な試みであると言える。
『覚醒』のデュアルアタック/デュアルガードが『if』の攻陣/防陣にリメイクされて真価を発揮したように、次回作以降のさらなる洗練に期待したい。


武器の耐久値―過去への後退

武器は壊れるべきなのか

『風花雪月』におけるもう一つの特徴的システムが、「武器の耐久(使用回数)制」である。
フォドラでは「鉄の弓」は40回しか戦闘で使えず、使用回数を使い切ってしまうと破壊されてしまう。

武器の耐久値は、初代『暗黒竜と光の剣』から存在する、ともすればFEというシリーズを代表するシステムである。
だが同時に、近年のシリーズでは採用されていなかったシステムでもある。『if』ではこの武器の耐久システムは存在せず、(杖などを除き)すべての武器を何回でも使える。スマホ版『ヒーローズ』も同様であり、『Echoes』もリメイク元の『外伝』と同じく使用回数制限は無い。

すなわち武器使用回数制は『覚醒』以来久々の復活だったのだが、こちらは良くも悪くも過去作からほとんど変わりがない。「FEのアタリマエ」を踏襲する保守的なシステムのままである。

結論から言ってしまうと、個人的にはFEの武器の使用回数制は好きではない
「嫌い」というほどではないし、もちろん利点もあると思うが、それ以上にデメリットの方が大きいシステムであると考えている。


武器耐久性のメリットとデメリット

確かに武器耐久システムには独自のメリットもある。大きいのは、「有限のリソース(資源)をどう配分するか」という選択性が生じる点だろう。

例えば『風花雪月』においては、「英雄の遺産」に代表される高性能な武器をどのタイミングで使うべきか、プレイヤーが考える必要がある。
 
 「このザコ敵に貴重な強い武器を使ってしまって良いのか? 撃破にターンがかかるリスクを承知で、「鉄の剣」を使ったほうが良いのではないか?」
こういったジレンマがゲーム性を生み出しているのは確かである。

だが、実はこの選択性はプレイヤーにとってフェアではない
というのは「貴重な武器をここで使うべきか、温存するべきか」という長期的視点におけるリソース配分は、あくまで長期的な展望をプレイヤーが持っている際にはじめて意味をなすからだ。

既にゲームをクリアしている「二周目」のプレイヤーならいざしらず、最初のプレイ中であれば、そもそも「エンディングまであとどれぐらい戦闘を重ねる必要があるのか」が分からない。
故にどれぐらい武器を節約するのが適当なプレイなのか、判断がつかない。常に不透明な不安の中でリソース管理を強いられ、クリア後になってようやく自分の判断が正解だったかどうかがおぼろげに感じられる。達成感を得づらいアンフェアな駆け引きなのだ。

これが、特にFEシリーズ/戦略SLGの初心者にとってかなりのストレス要素となっていることは間違いない。武器耐久性の大きなデメリットと言えるだろう。

『if』『Echoes』『ヒーローズ』には武器耐久性を採用していないが、いずれもゲームバランスが崩れているわけでもない――むしろシリーズ全体で見ても良い部類に入る。
武器耐久性が無いシリーズは、「ここで貴重な武器を使ってしまって良いのだろうか」などと怯えること無く武器を使える。1マップごとの戦闘に集中してプレイできるのだ。

『if』で武器の耐久性が廃止されたのは、以上のようなデメリットの解消を目指すためだったはずだ。
そしておそらく『風花雪月』で武器耐久性が復活したのは、「英雄の遺産」や「戦技」
といった強力な攻撃システムのバランス調整としての役割が大きいと推察される。
だがいずれにせよ、武器耐久性の根本的な問題――アンフェアなリソース管理と面倒なケアを強いるストレス――が蘇ってしまったのは確かである。

魔法の使用回数制―新たな可能性

だが『風花雪月』は、決して無策に過去のシステムを復活させたわけではない。
本作には同時に、これまでにない魔法の使用回数制も新たに取り入れられている。

例えば「ライブ」は1ユニットごとに、1マップ中に10回しか使えない。しかし戦闘が終わるとこの使用回数は全回復する。
従来の武器使用回数制と、『if』『ヒーローズ』式の無制限制の折衷案のような形だが、これは非常に優れたシステムであると感じる。

これにより、「経験値稼ぎのためにひたすらライブの杖を振る」といった面倒な(でもやらないと損になる)作業が抑制され、回復のタイミングや回数の管理がより重要になった。
前述の通り、ゲーム全体を通した長期的リソース配分はスパンが長すぎてプレイヤーにはストレスのほうが大きいが、1マップ単位の中期的なリソース配分であればプレイヤーとしても実感が持ちやすい。

またこのシステムは結果的に前述の「エースユニットばかりが戦闘を重ねて強くなりすぎる」問題の予防も兼ねている。
魔法の使用回数はスキルによって増やすことができるが、一部の最上級職にクラスチェンジすると、ステータスは上がるとこのスキルが無くなるため、継戦能力が下がるというジレンマも存在する。

いずれの視点から見ても優れたアイデアであり、いっそ魔法だけでなくすべての武器を「1マップ中の使用回数制」にしても良いと感じさせられた。

FEは伝統的なシステムを初代から多く引き継いでいるシリーズだが、決して完成形に到達することはない。
本作で取り入れられたシステムは、良い点も悪い点も次回作への礎になって行くだろう。