2019/10/12

「二度寝」としてのリメイク―Switch版『ゼルダの伝説 夢をみる島』


Switch版『ゼルダの伝説 夢をみる島』をクリアした。

本作は1993年にゲームボーイで発売されたソフトのリメイク。私は原作は未プレイだったが、良くも悪くも26年前のゲームボーイのソフトだと感じながらのプレイだった。

26年前のゲームなので…

はっきり言ってしまうと、『夢をみる島』は2019年の観点から見ると、明らかに『ゼルダ』としての(あるいは「ゲーム」としての)完成度が低い

第一に、『ゼルダ』のキモである謎解きやギミックが全体的に極めて簡素かつ単調だ。

部屋の敵をすべて倒すと(その敵もほとんどは単に斬りつけるだけで倒せる)宝箱が出現する」といった原始的な作業は、「謎解き」とは言えない。
ブロックを中央に集めると宝箱が出現する一例。極めて恣意的なギミック。
独特なテクスチャで描かれたコホリント島は美しいが、マップの配置は煩雑で不自然だ。

特定のアイテムがなければ侵入できない「行けそうで行けない場所」だらけで、「見える範囲すべてに行ける」『ブレスオブザワイルド』の開放感とは正反対である。
グラフィックは素晴らしいが、配置はやはり恣意的。
しかし、これらの文句は不当な言いがかりかもしれない。あくまで『夢をみる島』は1993年のGB用ソフトであり、現代の水準から見れば荒削りな部分も多いのは仕方ない。

だが、本作は同時に2019年のSwitch用ソフトでもある
どんな事情があろうが、プレイするのは2019年のプレイヤーである。つまり『時のオカリナ』も『神々のトライフォース2』も『ブレスオブザワイルド』も触れてきたプレイヤーに向けた作品としては、あまりにプリミティブである。

リメイクの理由――ネクロマンサーの動機

そもそも、なぜ『夢をみる島』をリメイクしたのだろうか?

ゲームのリメイクには必ず「理由」がある。
単に「出せば売れるから」という経営的な計算だけではない。すでに出たゲームという「死者」を蘇らせるには、必ず相応の動機が存在するのだ。

 
例えば来年3月に発売が予定されている『FINAL FANTASY Ⅶ REMAKE』は、戦闘システムが原作のコマンド式からアクション制に様変わりした。

これは、『FF7』のシナリオやキャラクターや舞台設定は「再利用」できるが、戦闘システム(ゲーム性)は、そのままだと「使えない」と制作側が判断したからだろう。

 
最近の任天堂のリメイク作品で言えば、2017年の『ファイアーエムブレム Echoes』。

こちらは1992年のFC用ソフト『ファイアーエムブレム 外伝』のリメイクだが、発売前はファンの間では内容(ゲーム性)に大きなテコ入れがなされるだろうと予想されていた。
『外伝』は他のシリーズに比べて特殊なシステム(3すくみや武器の使用回数が無い、弓の射程が長いなど)が多く、ゲーム性もアンバランスだったからである。

しかし実際の『Echoes』は、原作で特徴的だった多くの要素をあえて残していた。
一方で、「ミラの歯車」という巻き戻し機能の追加により、「原作らしいピーキーな要素を残しつつ、プレイヤーの裁量でバランスを取れる」作品としてチューニングされたのだ。
『Echoes』は原作の要素に現代的なフォローを入れることで、原作の持つゲーム性を「再発見」させることに成功した。


たまには二度寝を

『夢を見る島』は、どちらかと言えば『ファイアーエムブレムEchoes』に近い理念で作られている。
本作のクライマックスで、この作品がリメイクされた理由が少し感じられた。

物語の終盤で、本作の舞台・コホリント島は「かぜのさかな」という巨大な鯨が見ていた夢の世界である、という設定(?)が明かされる。

島に住む人々や登場する敵――なぜか平然と混ざっているクリボーやパックンフラワーも含め――は泡沫のごとき夢の存在であり、事実、かぜのさかなが目覚めることで島は泡となって消えてしまうのである。

この「消滅」は問答無用である。物語のヒロイン・マリンであってもそれは例外ではない。
エンディングでは、村の広場でいつものように歌っているマリンが、画面のホワイトアウトとともに、消える。最後の言葉も無く、特別なイベントも無い。それゆえ、プレイヤーに強烈な印象を残す。

マリンの消滅が一瞬なのは、それが「夢」だからである。リンクにとってコホリント島やマリンは「現実」の存在ではないから、それが正しい距離の別れ方なのである。ちょうど、プレイヤーがゲームの中の登場人物に対して取るのと同じように。
ただ広場で歌い続けるマリン。別れのシーンでも、長いカットシーンやセリフなどは一切ない。

しかし、かぜのさかなは言う。この島は夢であり泡沫である。だが、島での思い出はすべて現実なのだと。そして、「いつかこの島を思い出すだろう」と「予言」する。
 

Switch版『夢をみる島』は、まさに「夢を思い出す」という、それ自体を目的としたリメイクである。かぜのさかなの予言した「夢を思い出す」行為。それは幸福な「二度寝」なのだ。