2020/01/04

「普通のゲーム」になっ(てしまっ)た『ラブプラス EVERY』

リリース直後から1ヶ月半もの永遠とも思えるメンテナンスを経て、ようやく遊べるようになったスマホ版『ラブプラス EVERY』。

『ラブプラス EVERY』は、一言で言えばいたって普通のゲームである。

しかし、『ラブプラス』が「普通のゲーム」になったということは、それすなわち『ラブプラス』性が失われたということでもある。なぜなら『ラブプラス』は決して「普通のゲーム」ではなく、それどころか「ゲーム」ですらなかったからである。

「スキップモード」と「リアルタイムモード」

もう少し具体的に言うと、『EVERY』は、原作(DS・3DS版)の「スキップモード」をベースにした「リメイク作」である。

ここで念のため、元々の『ラブプラス』(DS・3DS版)のシステムを振り返っておこう。

基本的なシステムは『ときめきメモリアル』と同じく、コマンドを選択してステータスを上げ、休日にカノジョとデートしてコミュニケーションを取る……という流れである。

ただ、重要なのはDS・3DS版には「スキップモード」「リアルタイムモード」という2つのモードがある点である。
セーブデータから再開するたびに、プレイヤーは「時間の流れ方」をどちらにするか、毎回選択する必要があるのだ。
(DS版より)

2つのモードのうち、「スキップモード」だと、コマンド選択によってゲーム内日付が進行していく。要するに――『ときメモ』を始めとした――一般的な恋愛シミュレーションと何ら変わりないオーソドックスなスタイルである。

だが、名前から分かる通り「スキップモード」はあくまで補助的な立ち位置に留まっている。
『ラブプラス』の醍醐味は、なんといっても「現実」に沿ってゲームが進む「リアルタイムモード」にある。

「リアルタイムモード」は名前の通り、DS・3DSの時計と連動し、現実の日付・時刻と同期してゲームが進んでいく

毎日、プレイヤーは一日のスケジュールをコマンドとして入力する。
「スキップモード」であれば、即座にコマンドが実行され、あっという間に一日が経過するのだが、「リアルタイムモード」では現実で時間が経過しなければコマンドは実行されない。ゲーム内での1日が現実の1日なのである。

このゲームのメインは「カノジョとのデート」なのだが、基本的にデートの約束は日曜日・祝日・長期休みにしか取り付けられない。
さらに、デート当日は約束を取り付けた時間通りに待ち合わせ場所に行く(DS・3DSを起動する)必要があり、もし忘れたり遅れたりすればデートをすっぽかした事になり、カノジョの好感度が著しく下がってしまう。

よく考えれば、とんでもないゲームである。
ゲームのメイン部分(デート)を遊べるのは一週間に一度だけ。それもプレイヤーの都合の良い時にゲームを起動するのではなく、「約束の日時」に合わせてプレイヤーが現実の予定を融通しなければならない。

しかし、これこそが『ラブプラス』が「ゲーム」ではなく「(仮想)現実」である、と言われる所以である。
『ラブプラス』が提供するのは単なるコンテンツではなく、「カノジョがいる生活」の(仮想)体験なのである。

特にDS版が発売された頃は、まだリアルタイムと連動したゲームが目新しい時代だったこともあり、多くのプレイヤーが新鮮な体験に心を奪われた。『ラブプラス』は既存のゲームの枠を超えた新しい「体験」をカレシたちに与えたのである。


想像していた「スマホ版ラブプラス」は……

故に『ラブプラス』がスマートフォンで復活するというニュースを聞いた時、シリーズファンは期待の声を上げた。素人目に見ても、『ラブプラス』とスマートフォンの相性は抜群に思えたからである。

スマホなら四六時中持ち歩いているので、どんな場所でも短い時間にプレイが可能である。
例えばカノジョからのLINEを模した通知が来たり、ARカメラで現実にカノジョを写したり、GPSの位置情報を参照したご当地限定のイベントがあったり、目覚ましやリマインダーと連動したり……スマホを生かした「新ラブプラス」のアイデアは、カレシならいくらでも思いつくだろう。

しかし、現実はいつでもファンの妄想通り行くわけではない。
発表からリリースまで2年、さらにリリース直後から1ヶ月半のメンテナンスを経てようやく遊べるようになった『EVERY』には、上記のようなスマホを通じてカノジョとの「現実」を拡張するような試みはほとんど存在しない。
3DS版『Newラブプラス』には、3DSのインカメラを使ってプレイヤーの顔を認識させる機能があった。
現在のスマホの標準となりつつある顔認識ロック解除を先取りしたような先進的な試みであったが、残念ながら『EVERY』にはそういったベンチャー精神は全く見られない。(引用元

新要素が皆無というわけではなく、一部のイベントはVRに対応している(未体験)。
代わりに基本となっているのは、ガチャでカノジョのカードを引き、周回作業で強化するというカビの生えた典型的ソシャゲシステムである。
(もっともこのゲームは元々2017年リリース予定だったので、システムが2年ほど古臭いのは当たり前とも言える)

とは言え、このシステム自体が悪というわけではない。
前述通り、このゲームは原作の「スキップモード」をソシャゲのシステムに落とし込んだものであり、その観点から見れば「コマンド選択→ステータス上昇→デート」という原作の流れは再現されている。

ただ最大の問題は、そもそもスキップモードでやる『ラブプラス』はぜんぜん面白くないということなのだ。

「スキップ」されたもの

ウン年ぶりにDS版を起動した際のセリフ(マナカはショートカット派)。
今回、本当に久々にDS版『ラブプラス』を起動して「スキップモード」をプレイしたのだが、恐ろしくつまらなかった
コマンド消化でカレシ力を上げる作業は極めて単調であり、肝心のデートも演出のテンポが悪く、頻繁にタッチ操作によるミニゲーム(キス等)を強要されるのが面倒この上ない。

こんなひどいゲームをかつてはプレイしていたのか……と愕然としたが、よく考えればDS版をプレイしていたときはほぼ「リアルタイムモード」であり、「スキップモード」なんてやってなかったと思い出した。

そう、やはり『ラブプラス』は「リアルタイムモード」を前提とした作品なのだ。

「リアルタイムモード」であればデートは週に一回しか出来ないから、テンポの悪い演出も「カノジョとの大切な時間」であり、タッチ操作によるスキンシップも掛け替えのないコミュニケーションになる。
要するに自分が『ラブプラス』で楽しんでいたのは「カノジョとのデート」の自体ではなく、「カノジョがいる生活」そのものだったのである。

いずれにしても、『ラブプラス』の「スキップモード」は極めて単調ですぐに飽きてしまう代物である。
故に、「スキップモード」を元にソシャゲのシステムを被せた『EVERY』も同等に単調で平凡な「普通の恋愛ゲーム」になってしまうのは当然なのである。

『ラブプラス』が「現実」だったころ

自分が夢想していた「スマホ版ラブプラス」は、原作の「リアルタイムモード」をベースにしたゲームだった。
スマホを起動すればいつでもカノジョが自分の生活の隣に寄り添ってくれるゲーム。「カノジョがいる日々」を疑似体験できる、「現実」を拡張するツール。
原作の『ラブプラス』はまさにそういう作品だった。

だが『EVERY』は残念ながら、『ラブプラス』の特異性――「物語を読む」コンテンツではなく「現実を拡張する」ツール――をまったく活かすことが出来ていない。

(一応、デートには「DP」というリアルタイム経過で回復するスタミナを使用するので、延々とデートし続けることはできないが、それはあくまで時間によりプレイが制限されているだけで、『ラブプラス』の本質だったリアルタイム=「現実」との連動性とは似て非なるものである。)

デートの約束をして、その時間通りにアプリを起動していなければ怒られる。
遠くにデートに行ったり、良いレストランに入るにはゲーム内硬貨が必要で、もし足りなければリアルマネーを支払う。
それならば(課金システムの是非はともかく)『ラブプラス』の正当進化系と言えただろう。

むしろ、「普通の恋愛ゲーム」である『EVERY』のシステムにフィットしているのは『ときめきメモリアル』の方である。というわけで、歴代『ときメモ』ヒロインを攻略できるスマホ版を出してほしいという結論でこの記事を締めくくりたい。


システム面で共通点が多い『ときメモ』と『ラブプラス』だが、プレイ感覚は色々な意味で全く異なる。