2019/11/03

『スーパーマリオメーカー2』で最初に作ったコースはたいてい激ムズクソコースになる理由


『マリオメーカー2』を遊んだ。本格的に自分でプレイするのは初めて。

思ったのは、『マリオメーカー2』(アクションゲーム)に関する様々な示唆をプレイヤーに与えてくれる本当に稀有なゲームだということ。
この記事では、自分が『マリオメーカー』を通じて感じたことを、プレイ開始から順を追って語りたい。

意気揚々とはじめてのコースづくり

『マリオメーカー』のコース作りは、この手のコンストラクトゲームとしてはずば抜けて優れている。まず、作りやすい。そして、作るのが楽しい。

例えば『Trials Fusion』のコースエディターモードは非常に自由度が高いが、それゆえ操作が非常に煩雑で、ライトユーザーが「試しに軽くコースを作ってみる」のはほぼ不可能なぐらいハードルが高い。

だが『マリオメーカー』は、誰でも簡単にコースを作れる。当たり前に聞こえるかもしれないが、これは本当に凄いことだ。
パーツを選択して、とりあえず画面上をタッチすればコースができていく。そして、それ自体が楽しい。自分が「マリオ」のコースを作っている、というだけで興奮するのだ。

そんな具合に楽しみながら、小一時間かけて『マリオメーカー2』最初のコースを完成させた。こんな具合のコースである。
『マリオメーカー2』で初めて作ったコース(のハイライト)

見てもらえば分かるように、トゲだらけの狭い道をギリギリのジャンプでくぐり抜けていくという、繊細な操作が要求されるコースである。

こんなコースになったのは、直前まで『Celeste』をプレイしていた影響もある。
トゲの配置を一マス単位で調整しつつ、何度もテストプレイを繰り返す作業は、それ自体がアクションゲームの攻略のようであり、楽しかった。

ということで、初めてのコースを作って満足し、意気揚々とオンラインに投稿したのである。

作ったコースが評価されない……?

ところがである。オンラインにアップロードしたコースだが、ある程度の足跡は付くものの、「いいね!」があまり貰えていない
つまり、プレイした人があまり満足していないのだ。

なぜだろう? でも、素人が作ったコースだし、こんなもんだろうか……と思いながら、「どこまでマリオ」で他のユーザーが作ったコースを適当に遊んでいると、とあるコースと出会った。

それは外国のユーザーが作ったコースで、決してランキング上位に載るほど足跡やいいね数が多いわけではない。

内容も、空中の足場をジャンプで渡っていき、適度な数の敵を避けながらコインを集めるという、何の変哲もない至ってスタンダードなコースだった。

だがそのコースをプレイした時、突如として自分が作ったコースが極めて独りよがりで遊びにくい「ダメ!」なコースであることに気がついたのである。


「爽快さ」が欠けていることに気づく

なぜ突然そう感じたのか。理由は簡単で、その「何の変哲もないコース」は、プレイしていて楽しかったからである。
特別なギミックがあるわけではない。ただ、マリオをジャンプさせているだけで気持ち良かったのだ。
宮本 さきほども言いましたけど
『マリオ』は動かすだけでも楽しいゲームです。
社長が訊く『スーパーマリオギャラクシー』
引用は『スーパーマリオギャラクシー』の話だが、2Dマリオにも通じる命題だろう。

『マリオ』の本質はジャンプアクションゲームであり、いかに気持ちよくジャンプさせるかが『マリオ』の楽しさの根源なのだ。
『マリオ』本編はこの基本に忠実に作られているし、自分がプレイして楽しんだ「何の変哲もないコース」もそうだった。

自分が作ったコースがダメだったのは、マリオを気持ちよく動かせないからだ。

トゲだらけで1マス単位の精密操作を要求されるコースは、マリオの大胆な動きを制限し、チマチマしたストレスの溜まるプレイを強いる。それだけですでに『マリオ』としては大きなマイナスなのである。

また難易度が高すぎるのも良くなかった。

単純に、プレイヤーはクリアできなかったコースには「いいね!」を付けない
クリアを諦め、敗北感に打ちひしがれる状態で「逃げる」わけなのだから、そのコースにあまり良い印象を抱かないもは当然である。

「何の変哲もないコース」は敵も地形の配置も簡単で、初見でも気持ちよくマリオを動かしてノーミスでクリアできる程度の難易度だった。しかし、それでも十分に楽しかった。

作り手としては、難易度を下げると歯ごたえが無くなるような気がして不安になるが、難しすぎてクリアできないコースよりも簡単すぎるコースの方が、プレイヤーにとってはずっと良いコースなのである。

もちろん、世の中には難しくて面白いゲームもたくさんある。
だが難しいゲームに何度もリトライして達成感を得ようとするゲームプレイは、プロのクリエイターが難易度を適切に調整していることが前提だ。
作り手を「信頼」しているからこそ、難しいゲームに挑めるのだ。

しかし『マリオメーカー』においては、作り手は世界中の「素人」であり、果たしてそのコースが「適切に調整された歯ごたえのある高難易度」なのか、それとも単に「デタラメに敵を配置した理不尽な高難易度」なのか、判断がつかない。
ならば、ユーザーとしてはわざわざ難しすぎてイライラすると感じたコースを何度もリトライしてやる義理もないのである。

ちなみに、前述の『Celeste』の作者であるMatt Thorsonは、『マリオメーカー2』内でもコースを配信している。
 
中でも一番プレイされている「Banzai Bounce」は、巨大キラーをジャンプで踏みつけながら進んでいくアスレチックコースで、難易度は高めだがある程度操作に余裕もあり、なによりマリオを動かす動かす爽快感に溢れている。

流石プロだけあって、「マリオを動かすのが楽しい」という原則に基づいたコースになっているのだ。(ただし他のコースは、いささか難易度が高すぎるマニアックな内容のものも含まれているが……。)
Matt Thorson作のコースは、難易度とリトライ性を兼ね備えた、『Celeste』の作者らしい優れたコースである。

以上の反省から、とにかく「マリオを気持ちよくジャンプさせる」 ことをコンセプトに、2つ目のコースを作った。
難易度は、「普通の腕の人なら、初見でもノーミスクリアできる」程度を想定して調整した。

そうしてできたのが下のコースだ。
工夫しただけあって、こちらはオンラインに投稿すると、そこそこの数の「いいね!」を貰うことができた。ちゃんと、やった人に楽しんでもらえたのだ。
2作目は、こんな感じのスタンダードなコースに。よければプレイしてみてください。

「遊ぶ側」の視点を持つこと

最初にコースを作った時、自分に足りなかったのは「遊ぶ側」の視点である。

『マリオメーカー』は誰でも簡単にコースを作れるし、コースを作るだけで楽しめる。
それゆえ皮肉にも、コースを作ることを楽しむあまり、遊ぶ側が楽しいかを考えていないコースが出来上がりやすいのだ。

これは決して自分に限ったことではなく(多分)、ゲーム内で「はじめてのコース」みたいな名前のコースをプレイしてみると、結構な確率で上に挙げたような「とにかく敵を詰め込んだ理不尽な難易度」「非常に細かい精密操作を要求される」といった特徴が見受けられる。

そもそも、『マリオメーカー』のテレビCMでも、芸能人が「大量の敵を置いたコース」を作ってゲラゲラ笑っている風景が描かれている。
これは、まさに良くも悪くも『マリオメーカー』における典型的な初心者の遊び方である。

もちろん、作ったコースを親しい友達にプレイさせるのであれば、そういった理不尽な初見殺しをイタズラ的に仕掛けるのも楽しいだろう。
しかし、オンラインに投稿して不特定多数に遊んでもらうのであれば、自分はやはり「楽しく遊べる」ことを目的としたコースを作りたい。

作り手が技巧を凝らすことばかりを考え、受け手のことを考えていない作品は、どんなジャンルでも素人創作にありがちである。
コースは作る側のため(だけ)でなく、プレイする相手のためにある、という前提を理解するのが、コース作りの最初の第一歩なのだ。